電機業界のメメントモリ その6

 「このロット、引き取ってもらえないと、次回からの物量確保は相当難しくなると思うなあ。それでもいいっすか?!」
 世界最大のCPUメーカー、A社(一応A社としておこう)の営業マンはぼくに迫った。
 96年、10年身を置いた家電業界からPC業界に身を転じた。
 似て非なる業界だった。
 最も驚いたのは、このA社とマイクロソフトが圧倒的なパワーを持つ、その業界構造だった。
 一部品供給業者が、自らの顧客である完成品メーカーのことをPCベンダーと呼んだ。
 ベンダーとは、文字通り、売り屋とか販売店と言ったニュアンスで使われ、我こそが業界を牛耳るのだ、と言う覇権意識を象徴していた。
 商談毎にNDA(秘密保持契約書)を 'その場で'、サインさせられる。会社の許諾など取りようもない。
 物量フォーキャストの報告と、入荷ロットの引き取りの履行は、厳しく管理される。その実績が良くないと、完成品の売れ筋となる最新製品の物量「アロケーション」が制限される。
 営業マンの資質も、従来の家電業界の部品メーカーのそれとは異なる。さしずめ、値動きの速いダイヤモンドを売る、宝石商のようにぼくには見えた。(冒頭の営業マンは、証券会社出身だった。)
 「買って頂く」と言う顧客に対する発想はない。良くもあしくも、「アロケーション」、すなわち分配、配給をする、と言う発想ですべての仕組みが成り立っている。
 家電の世界から来たぼくは、強いカルチャーショックで、頭をぶん殴られた気がした。
 果たしてその後、家電業界でも、テレビの世界では製品が薄型化・デジタル化し、業界構造も大きく変貌を遂げた。まったく同じではないが、その本質は、PC業界と同じパラダイムに組み込まれたことは相違ない。 
 今朝の日経で、電子版からの転載記事が目をに留まった。スマホ業界で、独占的CPUメーカーであるクアルコム社による物量アロケーションが逼迫していると言う。
 その記事に強い既視感を覚え、16年前のPC業界のことを思い出したのだった。

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