ねぎしの牛タン
西新宿老舗シリーズ。
昼に牛タンが喰いたくなった。
牛タンと言えば仙台とおっしゃる向きが多い中、ぼくはやはり「新宿ねぎし」を差し置いて牛タンは語れぬと思う。
固すぎず、柔らかすぎずの絶妙な歯ごたえの肉質と焼き加減、程よく塩をした網焼き牛タンは申し分なく美味い。
が、これはあくまでも基本であって、ねぎしがねぎしたる理由はここからだ。
粘り、香り、舌触りも最高の大和芋のとろろは、はらはらと散りばめられた海苔の短冊と共に麦飯の茶碗に大胆に流し込み、素早く混ぜて後、ズズズと音を立てて食するのが良い。
口の中でその風味がとめどなく深まる。暫し後、さらに一枚の牛タンを頬張れば、これがまた肉の甘みと油分のえも言われぬほどの相性をもってさらに深まり、広がる。
極めつけは、合間合間に上品なアクセントを付け加える特製テールスープと、味噌なんばんのおみ漬だ。
ピンと背筋の伸びた新鮮且つ上品な白髪葱が添えられたテールスープは、雪解けの渓流の如くどこまでも澄み輝いている。
しかしその味は透明度を裏切るかのように、肉汁の出汁がそこはかとなく染み込み、底にはひときれのテールの肉片がまだ十分な旨味を残して蓮華に掬われるのを焦がれている。
山形名産おみ漬の味噌なんばん。薄味にして濃厚、地味にして華やか。唐辛子のピリリと辛い刺激は、幾らかの驚きを持って待ち構えるアピタイザーであり、さっぱりとした箸休めでもある。
定食の黒子のような存在でもあり、実はコンサートマスターなのかも知れない。
1200円でこれほど完成度の高いランチを他に知らない。
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