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大和街道ぶらり歩き

9月11日の昼下がり。
実家から駅までの20分強、旧大和街道を歩いた。

大和街道は亀山の隣り、東海道53次47番目の関宿の西の追分で東海道から分岐し、加太峠から伊賀上野を超え奈良へと続く街道だ。国道に並走するが今は生活路になっている。

都会なら歩く距離だが地方では今は誰も歩いたりはしない。時折すれ違うのは高齢者の運転する軽自動車かおしゃべりに夢中な自転車の若い中国人労働者たちだ。

甍の波を車でやり過ごしても気づかないが、歩いて見ると、表札がなかったり雨戸がピタリと閉まったままだったり、思いの外空き家が多いことに気づかされる。それぞれの家に刻まれたであろう小さな歴史に想いを馳せる。

民泊かAIRBNBとかで活用出来ないものか?治安も悪いし勿体無い。

ふと先を見ると地元の消防団が出動している。9月の防災訓練かと思えばどうやら稲刈り後の野焼きが延焼したらしい。さっきのサイレンはこの騒ぎだったのか?ただ今はもう鎮火して、用心のための放水を行っているらしく消防団の人たちの表情に緊張感はもはやない。

老朽化で今はもう人しか渡れなくなった橋を渡る。こどもの頃幾度自転車で駆け抜けただろう。柘植川の川面が涼しげで、白鷺が獲物を物色している。

駅は相変わらずシンと静まりかえっている。駅務のおじさんが手持ち無沙汰にしている。他に客もなくなんだかぼくに話しかけたそうだったが、ぼくは視線をそらせた。駅の静寂が心地良かったからだ。

近づく汽車の音に耳を澄ませる。

かつてこの駅で蒸気機関車D51のナンバープレートを半紙とコンテを持って拓本を取らせてもらっている自分の姿、機関士さんと仲良くなって石炭をシャベルで入れさせてもらっている幼馴染の得意げな顔がフラッシュバックのように記憶の引き出しから飛び出す。

2両編成の関西線がホームに滑り込む。

降りる人はいない。乗るのはぼくひとりだけだ。

また静寂だけが小さな駅に取り残される。

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