おおらかな時代
学生寮。
湯船でゆったりリラックス中のボクら一年生。
そこへ突如四年の先輩の一群が入ってきて思わず緊張が走る。
合わせまいとする視線がつい合ってしまう。もう手遅れだ。
風呂桶ひとつのみを与えられそのままの姿で徒歩五分ほどの女子寮へストームに行くことを命じられる。
ストームとは校歌、寮歌を放吟し、女子寮の窓に向かってあらん限りの大声を振り絞り、体育会式の自己紹介をするのだ。もちろん裸のままで片手で風呂桶を前にかざしながらだ。
戦後間もなくの話とかではない。
80年代前半のことだ。今では考えられないおおらかな時代だった。
バンカラ風を気取る体育会系の学生寮で、文化系でもESSとか詩吟部とか応援団総部吹奏楽部など詰襟を着ている学生が過半数だった。
ハチャメチャだらけだったがその中の人間関係の濃密さは人生における大いなる糧となり肥やしになっている。
今は飲み会も学部とか学生部事務室に事前届け出制らしい。無意味な一気飲みの抑制等もちろん良くなったこともたくさんあるだろう。
ただおおらかさがどんどん世の中全体から失われつつあることには一抹の寂しさを禁じ得ない。
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