津田の奇跡

ダイアンの津田が死んだ。

それはお笑いの日が放送される一日前の事。
当然、翌日方放送が予定されている、お笑いの日25周年企画、ゴイゴイスーミュージカル2時間verも中止となった。
いや、なるはずだった。
ランジャタイの国崎は、ゴイミュを中止する選択に断固拒否する姿勢を示したのだ。
ゴイミュに関わる全ての人間が国崎を止めた。
それも当然のことだ。
主演の津田がいない。
もう死んだのだ。
今ゴイミュを打てるわけがない。
しかし、国崎は決して折れない。
津田の死を悲しむ者。
津田の死を受け入れるもの。
津田の死を決して認めないもの。
現場は混乱を極めた。

そしてゴイミュ当日、この世の芸能界のすべての権力を握っている国崎の言うことを止めることができる人間はいないため、皆がしぶしぶゴイミュ開催を認めた。
舞台の準備が始まる。
25周年記念ということで、今回は伝説の第一ゴイミュのリメイク。
津田は箱の中から登場することになっている。
本番前に、箱の中に死体の津田を入れる国崎。
国崎は津田にぼそっと一言何かを囁いた。
その内容を聞いたランジャタイ伊藤は、大粒の涙を流していた。
この時、津田の死を悲しんでいるのか。
それともこれから起こることに対しての涙なのか。
今となってはわからないことだ。

そして、ついに幕が上がる。
冒頭シーン、国崎と伊藤が肩をぶつけて一触即発になる。
そしてスローモーション。
スタッフ、観客は皆、呆れ返った顔で舞台上を見つめる。
ランジャタイの動きが止まる。
音楽が流れる。
トゥートゥートゥートゥットゥトゥー。
その瞬間。
開くはずのない箱が開いた。
そして。

ゴイゴイスー!

津田だ。
津田が生き返った。
騒然とする現場。
津田は生き返ったのだ。
観客は涙を流し始める。
そして。
世界が揺れるほどの爆笑の渦。
世界中の人間がスタンディングオベーション。
奇しくも、津田の、第一回ゴイミュでの不安げな顔からウケることで笑顔に変わっていく様と、何が起きてるか理解できていない顔からウケることで笑顔に変わっていく様は驚くほど一致していた。
後ろでストップモーションをしている国崎と伊藤の目には涙。
我々はこれ以上の奇跡を知らない。

2時間のゴイミュをやり切った後、津田は自分の状況を理解できていない様子だった。
近くにいる国崎と伊藤に話しかける津田。
しかし。
反応が返ってこない。
本番が終わったのにも関わらず、ストップモーションが解除されない。
それもそのはず。
国崎と伊藤は、立ったまま死んでいた。
ランジャタイは自分たちの命と引き換えに、津田を蘇らせたのだ。
そのことを一瞬で理解した津田。
津田は、国崎と伊藤に対して、全身全霊の愛を持って静かに囁いた。

ゴイゴイスー。

これは津田が、世界を救う物語である。

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