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くよくよ団

呪いのマスミ

「呪ってやる……嫌いじゃ……バチ糞嫌いなんじゃボケがあああああ!!!!」

マスミはある日、キレた。この女、マスミは、ネット上では「おっさん」として知られている。しかし、マスミはれっきとした女性であり、編みぐるみ作りをこよなく愛する、三十一歳の、極めて大人しい性格の実家暮らしなのだ。祖母のデイサービスへの送迎は、マスミの仕事だ。そして、おっさんでは無い。

大福のような拳を叩きつけたキーボードの隙間には、柿の種・梅しそ味がびっしり張り付いている。「L」が取れて、床に落ちた。

……何でや、なんでうちばっかり責められなあかんのや、書きたい事書いているだけやろ。何で、何で、くよくよ団の話を書くのはタブーなんや。誰だって、世界を救う、古代人の遺産、失われた餅の事を知りたいやろが。あの恐ろしい、四千年の歴史を持つ拷問、サン・テニスについてもっと、議論する余地があるやろう! この国の教育はおかしいんやで。万人による万人のための神経科学、ハッスルムーブメントについて、知ろうとしないのは愚かな事だと、百年前のフランス人哲学者、シャルル・ホラッチョも言ってたんやで。今頃になって、ようやく国会議事堂前でハッスル・ハッスルって! 群衆心理や! リンチの予感しかしない、いや、もう既に、うちに対する、群衆によるリンチが、始まってるんやで。無念なり……

学習机の上にある、お菓子の袋の山を掴んで部屋中に散らばす。湿気たスナックが空気中に散布され、万年床の上に降りかかった。ノリ塩なのか青カビなのか判別し難いシーツの模様の奥の、象が恨めしそうに、マスミを見ている、わけは無いのだ。モノはモノであり意思を持っていない事など、学童期あたりまでに人は気が付くものだ。そして、大人になるのだ。しかしマスミは……マスミの世界の動物たちは実在しているし、お喋りするし、マスミの友達なのだ。一人たりとも、欠けてはいけない、大切な家族でもある。毛糸でできた。

奥行のあるデスクトップが重々しい、古いパソコンを諦めたマスミはスマホをいじり始めた。そして、小説投稿サイトのマイページの、新しいコメントをチェックする。その新しいコメントを見て、マスミの心臓が、ずきりと痛んだ。

「いいかげんな事書いて人心を惑わせたらいけないですよ、遠藤仁吉(えんどうにきち)Lv50さん。あなたの書くものは全て、狂っています。そう、狂っているんです。あなたの作品(笑)は多くの人を傷つけました。よって、あなたは大罪人なんですよ、僕の見立てでは。タヒんでお詫びしてください。いや、僕の目の前から消えてくれるだけで沢山ですから。他の人達がどう言おうと、気にしなくていいと思いますよ。たぶん。すいませんね、ハッキリ書けなくて。自分がかわいいので、これ以上は許して下さい。ああでも、高血圧、お大事になさってください。近頃暑いですからね。水分をよく摂る様に。では、お元気で」

……どうとでも言うがええわ日和見の愚かな奴め。うちは、書きたい事を書くで、これからも。それに、好きなもの食べるで、たとえ、血圧が上、二百超えてもな……

マスミはブツブツ呪いの言葉を吐いてから、そっと、「mo細胞」氏のコメントを、消した。

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