届かない叫びは
君のその、何かを見つめる目が好きだ。
数学の時間、黒板の文字をノートに一文字ずつ記していく
その姿を私は目に焼き付けている。
二次関数のグラフも前まではあんなにも美しく見えていたのに
私にとって「美しい」と「君」が等式になったみたいで。
普通の和と差さえできなくなる始末だ。
君はよく後ろでぼーっとたたずんでいる。
でもその姿は気だるげではなく凜と澄んでいて、
人間はこんなにも純粋でいられるのかと思った。
でも私は、君に話しかけられない。
このクラスには、たぶん見えない壁がある。
触れてはいけない、触れてしまっては戻れない線。
踏み超えてはいけない、踏み入れてしまったらすべてが一転する。
放課後の教室、課題が終わらなくて居残りさせられていた私は、
グラウンドのそばを歩いて下校する君を見つけた。
なんで君はそんなにも。
どうして君はこんなにも。
ふっと笑みがこぼれて、窓から身を乗り出した。
「好きだ」
声にならない声を、君に投げつける。
彼は知らない。その声を。私を。
私も知らない。彼の声を。君を。
だから、知らないから、いくら声が声にならなくとも、叫び続ける。
問題集の模範解答などないのだから、私は私で私なりに、私を頑張る。