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変わらないもの、信じたいもの

信じているものが永遠になると思っていた。
変わらないものもこの世にはあると思っていた。

だけど違った。

この地球は刻々と微熱を帯び、
青春という名の学生時代は過ぎ、
僕の身体の中の酸素さえも新しくなる。
かつての友人は恨みあうライバルとなり、
嫌っていた先生は心から尊敬する恩師となり、
あんなにも愛していた人は僕をおいて消えた。
信じられるものはどこにもない。
すべて変わっていくのだから。

「本当に?」

愛という名目でお金を稼ぎ、
心優しい仮面で人々を惑わせ、
自分の犯した罪を殺す。
それが常識だと言わんばかりにしのび笑いをする人々に、
僕は踊らされている。
何も、信じることはできないのだ。

「それで寂しくないの?」

愛し合う二人の幸せを願っても、
いつかその愛はシンクにたまった皿みたいになる。
海を越え山を越えた先の子供たちのためお金を払っても、
それが本当にその子たちのためになっているのか疑わしい。
勇気を振り絞り出したか細い声を、
「お前が悪い」と大人数で責め立てかき消す。

「確かに、そうかもしれない」

もうなにも、僕は信じきれない。
信じるべきじゃない。

「それは違う」

どうして!
僕のことを優しく撫でてくれたあの人だって、
裏では僕を操ろうとしてた。
僕のことを友達だって言ってくれたあの人だって、
一年後には僕にバケツの水を投げた。
きっと次会う人も、その次の人も、
みんなみんな、僕を……。

「きっと君も気づいてる」

気づいてなんかない! 他人なんて信じてはいけないんだ!

「確かに、君のことを傷つけた人がいることは本当」

「でもそれで未来を閉ざすべきじゃない」

「だってそうでしょう?」

「すべて変わっていくから、すべて信じられる」

そうか、変わっていくのか。
しのび笑いをした人々に抗い、
責め立てる大勢をよそに本当に大切なものを守り、
バケツの水を勇気に変えられるのは、まぎれもない僕。
そうやって未来を信じることを諦めちゃいけない。

「そうだよ」

「君は、『信じられない』んじゃない。『信じない』んだ」

綺麗事だと人は言うだろう。

「そんな奴なぎ倒せ」

本当の悪もあるのだろう。

「つらいことさ」

また裏切られるのだろう。

「でも君は」

もう迷わない。

「信じているものは変わっていく」

だけどそれが愛おしい。

「変わらないものなどない?」

いいや、あるさ。
僕が信じた『信じたいと思った気持ち』は、その気持ちが消えるまで変わらないよ。