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01.失恋

水浸しの靴下も脱げずに玄関に倒れこんだ。
こんな日常でやってた行動さえ億劫で、動く気になれない。
塗れた長い髪もうっとうしい、張り付くワンピースもいらない。
一つずつ、時間をかけて脱いでゆく。
キャミソール一枚の身体を奮い立たせてリビングに歩く。
何か食べなければ、死んでしまう。昨日の昼から何も口にしていない。
重くのしかかるあの人の言葉。
冷蔵庫を開けて、何か食べれるものはないかと覗き込む。
食べかけのチーズケーキが、チルドルームに眠っている。
ああ、これは、もう。
その場に崩れ落ちて、枯れていたはずの涙がこぼれてくる。
明日また来て食べる、そういったじゃないか。
そうやって来る理由を見つけてくれる、それがうれしいのに。
馬鹿みたいだ、今あの人は、きっと女のもとへ行っている。
好きな人ができた、と打ち明けられた今朝のことが思い出されてしまう。
なぜ言ってくれなかったのか。
なぜ私じゃダメなのか。
答えを教えてから、去ってくれよ。
このチーズケーキはどうすればいいんだ。
このまま放っておくのか。
今の私のように。
いずれ腐っていく、私もチーズケーキも。
この身焦がれるまでに愛した相手は、どこかへ行ってしまった。
それならばもう、この熱は自分を腐らせることにしか使えない。
いっそ、あなたの手で私を殺してくれないか。
あなたのその繊細な指先を使って、私の胸の中心にカッターを突き付けてくれないか。
そしてもう一生私が忘れられない身体になってしまえよ。
殺せば残るでしょう。この存在が。
犯した罪の重さがわかるでしょう。
涙を流しながら、冷蔵庫に入っていた板チョコを見つける。
いつのかすらわからないそれを、口に頬張った。
カロリーなどもう関係ない。味だけじゃない、心まで甘さで満たしたい。
どうして、どうして、を繰り返す自分を消したい。
好きになった女というのは、どんな人なのか。
素敵な、素晴らしい女性なのだろうか。
こんな衝動に駆られて板チョコを食べるような人ではないのだろう。
でもね、あなたも大概よ。
私が嫌いだって言ってるタバコは吸うし、ビールも何杯も飲む。
そんなところが私だってあなたが嫌いだった。
でもそれ以上に好きなところがあったから。
信じていたのに。どうして。どうして私じゃないの。
失ってしまった私の気持ちは、どこへ持っていったらいいの。
この焦がれた胸の痛みは、どこへ。
私の涙は、何かに変わるの?
あんなにも愛して溶け合っていたのに、あなたはすぐ消えてしまった。
あなたがあの時言ってくれた「愛してる」の居場所は、もうなくなってしまった。
濡れた身体は、まだ震えが止まらない。