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事件なんか起こしてないけど・・・

 裁判手続では理解が難しい様々な専門用語が使われていますが、普段からよく聞く言葉が通常とは異なる意味で使われることもあります。そして、「事件」という言葉もそのひとつになるのではないかと思います。
 「事件」は、裁判所ではとてもよく使われる言葉ですが、一般市民の感覚からすれば、「事件」といえば、お金を盗まれた(窃盗)とか他人に殴られて怪我をした(傷害)といったような犯罪を思い浮かべるのが普通だと思います。しかし、裁判所では、そのような犯罪に関する手続以外にも「事件」という言葉が使われており、そのような事情を知らない人からすれば、裁判所における「事件」という言葉の使われ方に違和感を覚えることもあるのではないかと思います。
 なぜ、裁判所で「事件」という言葉がよく使われるのかといいますと、裁判所では、公開の法廷で行われる訴訟手続のほかにも、非公開で話合いが行われる調停や和解など、様々な裁判手続が行われているわけですが、裁判所において行われる裁判手続については、犯罪に関するもの(刑事事件)に限らず、個人や会社が申し立てることによって手続が開始されるもの、例えば、貸したお金の返還を求める民事訴訟なども含めて、その全てを「事件」として受け付けて、その後の手続を進めることになっているためです。先ほどの貸したお金の返還を求める民事訴訟を起こした場合は、貸金請求「事件」として手続が進められることになるわけです。
 そして、裁判所には、1年間に何千、何万といった件数の様々な「事件」が申し立てられることになるため、「事件」という言葉がよく使われることになるわけですが、裁判所における「事件」という言葉の意味をよく知らない人が、例えば、民事訴訟の相手方(被告)として、初めて裁判手続の当事者となった場合に、貸金請求「事件」というような言葉を使われると、「事件」という言葉について犯罪を思い浮かべてしまうなどして、自分は事件なんか起こしていない!という思いになってしまうこともあり得るわけです。
 この点、日頃から裁判手続に関与している弁護士や司法書士と言った法律の専門家からすれば、「事件」という言葉がそのような意味であることは、もはや常識になってしまっているわけですが、裁判手続には、法律の専門家ばかりではなく、「事件」という言葉の意味を正確に理解していない一般市民が関与することもあるわけですから、裁判所の職員を含む日頃から裁判手続に関与している者としては、一般市民であればどのように考えるだろうかということも思い浮かべ、場合によっては、なぜ「事件」という言葉を使うのかということについて、わかりやすく説明をするという意識をもっておく必要があるのではないかと思います。
 裁判所のホームページでは「最高裁判所の主な規程・通達等」が公開されており、その中には、様々な申立てを「事件」として受け付けることの根拠となるものとして、「事件の受付及び分配に関する事務の取扱いについて」という名称の内部通達もあります。その別表を見れば、「事件」には法廷で手続が進められる民事の通常訴訟事件や刑事の公判請求事件のほかに、各種調停事件や強制執行事件など、たくさんの種類があることがわかると思います。中には、「雑事件」なるものもあり、中身は本体の事件に付随する事件が多いようですが、雑に扱われると誤解されないよう、もうちょっと違った名前にできなかったのかと思ったりもします。興味があれば、一度その別表を参照してみてもよいかもしれません。

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