弁護士会館

高齢者はなぜネトウヨにはまったか ~弁護士への大量懲戒請求事件 〈連載第2回〉

近年、ネット上やリアル社会でのネトウヨと呼ばれる人たちの煽り活動などが大きな社会問題となっています。ここで取り上げる弁護士らへの大量懲戒請求問題もそうした現象の現れと言えます。
一つの匿名ブログがきっかけで、弁護士らに1,000人単位の大量の懲戒請求通知書が送りつけられた問題は、ネットがリアル社会に大きな影響を与えたものとして注目を集めました。こうしたある種の煽動に踊らされた人々の異様な行動は、ネット社会に特有の社会病理学的事件とも言えそうです。
なぜ、会ったこともない人物が書いた荒唐無稽な話に1,000人単位の大人が踊らされてしまったのか。しかも多くは50歳、60歳を過ぎた分別のあるはずの大人でした。
事件の発端から裁判の経過、現在の状況までを紹介し、関係者や懲戒請求を受けた弁護士のインタビューを交えながらその謎に迫ります。
第2回は、より先鋭化していくネトウヨブログの“コアな読者”たちの実像に迫ります。また、「余命三年時事日記」の呼びかけに応じて懲戒請求を行った読者らが、懲戒請求された弁護士から提訴される経緯を、弁護士の声も交えて紹介します。
なお、本稿は、今年4月5日から日刊ゲンダイで16回連載をした「高齢者はなぜネトウヨにはまったか」に大幅に加筆したものです。

【著者プロフィール】
三宅 雪子(みやけ ゆきこ)
元衆議院議員。1965年(昭和40年)3月5日ワシントン生まれ。
父は三宅和助(外務省元シンガポール大使・中近東アフリカ局長)祖父は石田博英(石橋湛山内閣官房長官・労相6回運輸相1回務める)幼少は海外で育つ。
桐朋女子高校、玉川学園女子短期大学、共立女子大学を卒業。民放テレビ局に21年間勤務(営業局、報道局、国際局等歴任。CSR推進室で環境・社会貢献に関わる。報道局では経済部記者として為替と株式を担当)。
2009年第45回衆議院議員選挙、群馬4区から福田康夫元総理の対抗馬として立候補。北関東ブロックで比例復活当選。予算委員会、厚生労働委員会に所属、民主党国際局副局長などを歴任。
2012年7月より「国民の生活が第一」入党。党選挙対策副委員長。
2012年12月千葉4区から立候補。
2013年1月生活の党。2013年7月参議院全国比例代表選挙惜敗(2位)。現在無所属。
執筆やネット配信など、政治特に福祉や雇用など専門分野を軸に社会で起きていることをわかりやすく伝えていくことに力をいれている。
2016年6月10日号の「投票時間繰り上げの謎を追う」(週刊金曜日)が初のルポルタージュ。その後多数の記事執筆を経て、本作は初の長編デビュー作となる。2年以上に及ぶ取材と多数の傍聴を経て書かれた渾身の報告である。

【執筆協力者プロフィール】
佐々木 亮(ささき りょう)
司法修習第 56 期。昭和 50 年 北海道小樽市生まれ。平成 11 年 東京都立大学法学部法律学科卒業。平成 13 年 司法試験合格。平成 15 年 弁護士登録(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。弁護士会活動:日本弁護士連合会労働法制委員会、東京弁護士会労働法制特別委員会。日本労働弁護団常任幹事、東京都労働相談情報センター民間労働相談員、ブラック企業被害対策弁護団代表。

嶋﨑 量(しまさき ちから)
司法修習第60期、昭和50年神奈川県生まれ。平成11年中央大学法学部卒業、平成17年司法試験合格。平成19年弁護士登録(横浜弁護士会、現神奈川県弁護士会)。神奈川総合法律事務所所属。弁護士会活動:日本弁護士連合会労働法制委員会。日本労働弁護団常任幹事、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク幹事。


【洗脳解けず ネトウヨブログの“コアな読者”たち】

■最大の間違いは?「懲戒請求は匿名で出来る」「名前は相手に知られない」

ブログ主である余命氏は自信たっぷりにこう書いた。

「懲戒請求は匿名で出来る」
「名前は相手に知られない」

故意だったのか、それとも本当に匿名で懲戒請求できると思っていたのか。多くのブログ読者はこれを鵜呑みにした。これにかかわらず彼ら彼女らは確認ということをしない。そして送られてきた書面に署名をして、懲戒請求をしてしまい、弁護士らに提訴され、名前を公に知られることとなった。
中にはその書面をほとんど読んでいなかった者もいる。そして、全ての訴訟で負けた場合、数十万から数百万の損害賠償の可能性がある。
繰り返し書いているが、懲戒請求された弁護士には通知書が来る。そこに弁護士は「要求しなくても」懲戒請求者の情報が書いてある。「要求しなくても」だ。相手が誰かわからないと答弁書が書けないからである。ちょっと考えたらわかることだろう。
確かに、出版されている弁護士白書や弁護士会のホームページの懲戒請求に関する記述は難しくてわかりにくいかもしれない。
だったら、弁護士会に電話して確認すればよかったのだ。それを誰もしなかった。そのことにも驚く。
自分の情報が弁護士に知られて提訴される可能性があると知っていたら、1000人近い懲戒請求者の何割かは懲戒請求をしなかった可能性がある。
その後、怒りの矛先が自分に向かうことを避けるためか、余命氏は「弁護士らが不当な方法で個人情報を手に入れた」と言い出した。
噴飯ものだが、これをまた懲戒請求者がいとも簡単に信じてしまうのだ。すぐに「弁護士らはケシカラン」となった。これもまた調べないわけだ。
神原元弁護士が和解者のリストをメディアに出しているというデマも流された。

■日本弁護士連合会の反応

日弁連(日本弁護士連合会)は、中本和洋会長名で大量懲戒請求事件についての声明を2017年2月25日に出してからほとんど動きはない。
談話は以下の通り(日弁連HPより)。

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全国各地における弁護士会員多数に対する懲戒請求についての会長談話

近時、当連合会や弁護士会が一定の意見表明を行ったことについて、全国の21弁護士会に対して、900名を超える者から、その所属弁護士全員を懲戒することを求める旨記載した書面が特定の団体を通じて送付されてきている。
これらは、懲戒請求の形をとりながらも、その内容は弁護士会活動に対して反対の意見を表明し、これを批判するものであり、個々の弁護士の非行を問題とするものではない。
弁護士懲戒制度は、個々の弁護士の非行につきこれを糾すものであるから、これらを弁護士に対する懲戒請求として取り上げることは相当ではない。
私は、本年12月21、22日開催の当連合会理事会において、各弁護士会の会長である当連合会理事にこの旨をお伝えした。
各弁護士会においてしかるべく対処されることを期待する。

弁護士懲戒制度は、基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする弁護士の信頼性を維持するための重要な制度である。
すなわち、弁護士は、その使命に基づき、時として国家機関を相手方として訴えを提起するなどの職務を行わなければならないこともある。
このため、弁護士の正当な活動を確保し、市民の基本的人権を守るべく、弁護士会には高度の自治が認められているのであって、当連合会及び弁護士会による弁護士の懲戒権はその根幹をなすものである。

当連合会は、この懲戒権を適正に行使・運用しなければならない責務が存することを改めて確認するとともに、市民の方々には、弁護士懲戒制度の趣旨について更なるご理解をいただくようお願いする。

2017年(平成29年)12月25日
日本弁護士連合会
会長 中本 和洋
https://www.nichibenren.or.jp/%20activity/document/statement/%20year/2017/171225.htmlより)

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12月27日に、日本弁護士連合会広報の武内大徳氏に尋ねたところ(新しい情報はないという理由で面会はできなかった)、

・日弁連としては、2017年12月25日の会長声明以来、外向きの発表はしていない。今後する予定は今のところもない。
・この大量懲戒請求について、訴訟の提起など特段のアクションの予定はない。
・懲戒請求制度の見直しの予定はなし(その後、内部からの声で話し合いは持たれているようだ)
・懲戒請求をする人に相手(弁護士)に名前が通知されることを記載するなど周知したらどうか?=特にコメントなし

「インタビューは答えてくれないよ」と事前に聞いていたが、思ったよりは丁寧な対応だった。
しかし……ここまでの事態になっても日弁連は動かないのか、と驚く。会員の弁護士らに何かあっても守ってくれない。このような弁護士会という組織には多くの問題があるように感じた。しかも、日弁連は加盟していないと事実上弁護士活動ができないので、入らないという選択肢はない。

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