真実真正に生きよう

　ひとつ嘘をつくと、その嘘を隠すためにまた別の嘘をつくようになると云う｡

　そうして嘘に嘘を重ねていくうちに、いつしか、取り返しの付かない事態へと、手ずから自分を追い込んでいく｡

　だから、嘘をついたらなるべく早いうちにごめんなさい、私は嘘をついておりました、と白状してしまったほうが身の為なのだが、実際はなかなかそうもいかない｡人には体面とかメンツとか人間関係とかいった、しがらみ的なことがらがあるから、ついつい嘘をつき通そうとしてしまう｡

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　あと六年したら、東京で二度目のオリンピックが開催される。

　さすればその期間、大会の観戦を目的として世界中から、観光客が我が国に押し寄せてくる｡

　このことを思うとき、私の心には暗雲が垂れ込めてくる｡とてもいやあな気分になる｡

　早く我が国も、嘘を白状してしまったほうが良いのではないか。いつまでも嘘を重ねて世の中を謀っていると、仕舞いには世界中から総すかんを食うのではないか、と。

　たといば我が国が世の中に吐いている嘘のひとつに、東京ディズニーランドの所在地、という問題がある。ご案内の通り、あれがあるのは千葉県の浦安市であって東京都内ではない。だのに東京と冠をつけて威張っている｡

　我が国に住まっていればこの嘘も当たり前のこととして消化されてもいよう｡だが、裏を返せばこのことは、我が国のことをなんにも知らない観光客である外国人のみなさんを結果的に謀っていることにもなろう｡

「噂に聞いた黄金の国ジパングの首都、TOKYO！　その名前を冠に抱く極東のディズニーランドにいま私はいる！　すなわちいま、私が足を踏み入れているのは紛う事無きメガロポリスTOKYOなのだ！」

　なんて嬉しがっている外国人観光客の皆さんに、いやあのじつはそこは浦安といって東京の隣県の海っぺりを埋め立てた田舎なんスよ……と、真実を告げなければならなくなるかも知れないのだ、と想像すると、やはり心が苦しくなる｡無知が為に浦安と東京の区別がつかないでいる無垢な外国人観光客を、結果的にとはいえ謀らねばならなくなるのだと思うと、やはり胸が苦しくるなる｡

　そうして心や胸が苦しくなるのは誰だって嫌だから、どうしたって更なる嘘を重ねることになる｡東京ディズニーランドが東京にあるという嘘をつき通す為に、千葉県は東京都の中にあるのだと嘘を重ねることとなる｡

　と、そう云われりゃァ外国人だって馬鹿じゃないから、いくらなんでもそんなこたあないんじゃないの？　とガイドブックを片手に反論してくるかもしらん。だがこうなるとこっちだってもう後には引けない｡半ば喧嘩腰となって「いいかこの野郎よく聞け。千葉には東京ドイツ村という場所だってあるのだ。東京のドイツを名乗る場所だがこれがあるのは千葉の袖ケ浦だ。わけがわからんだろう。とにもかくにもそういうわけだから千葉は東京なのだ」なんて云ってますます譲らないこととなる｡

　ここまできたらもういけない。始めについた”日本のディズニーランドの所在地は東京である”という嘘をつき通す為に、つかなくてもいい、八百万の嘘をつかなければならなくなる｡そうして嘘に嘘を重ねていくうちに、仕舞いには「浅草の花やしきが東京ディズニーリゾートの中心だ」ぐらいの途方もない嘘にまで到達してしまうことだろう｡

　辛いことである｡哀しいことである｡人間としてやってはいけないことである。こんな大嘘をついていたら、死んだあとに定めて地獄に堕ちる｡

　だから、我々日本国民を地獄に落とさない為にも、次の東京オリンピックが開催されるまでの間に、東京ディズニーランドはきっと浦安ディズニーランドと改称し、真実真正、嘘偽りを申し上げることなく観光客のみなさんを迎えられるようにしてもらいたい。と、日本国民の端くれとして、関係各位の皆さんに対して切に願うものである｡東京ドイツ村のほうはまあいいや｡（了）

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※投げ銭と致します。この先にはもう何もありません｡世界の果ては滝になって流れ落ちているばかりです｡