ミュージカル 憂国のモリアーティOp.4 -犯人は2人-

【観劇】
2023/01/29 17:00 新歌舞伎座(大阪)
2023/02/11 18:00 天王洲 銀河劇場(東京)

観劇の際に書いた感想そのままです。
読みにくいかもしれません。

【一幕】
・頭の音で持っていかれました。重々しいピアノの音は、やはり憂モリの世界観に合いますね。貴族と貧民。彼らの関係性を象徴する歌でしたね。「働け、私たちのために」「生まれたときに、すべてが決まる」的なことを言っていました。やはり頭にこういう歌を入れるのは、ウィルさんたちの目的などを毎回明確にするためでしょうか。とても好きです。

・シャロさん=I will、ウィルさん=I hope。シャロさんはずっと「必ず」と言っているので、I will なんですよね、きっと。「~したい」ではなく、「するんだ」と決めている。一方でウィルさんはあくまで願望。そうなってほしいという願い。「僕の望みが叶うなら……」そこで終わるのがずるいですね。望みが何なのかを明確にしていない。恐らく、殺害されること、平等な世界の実現、その両方なんですが、言葉にするとどちらが寄り強い願いなのか順序がついてしまう。敢えて言わないことで、甲乙つけがたい、ということなのか?

・「問題ない。計画を進める」とウィルさんだけがはける場面。あそこで、モリアーティ陣営の綻びが浮き彫りになったと思います。仲間たちとウィルさんの間の埋まらない溝が、ひとり後ろにはけていく背中を見つめるモリ陣営、という形で表されていたと思います。
→その後、ルイスくんとフレくんがはけ、ステージに残ったのは兄様と大佐。
大佐「さっきのウィリアムの発言……いや、あれだけじゃない。もしかして、ウィリアムは」
兄様「大佐の懸念は、当たっていると思う」
なるほど。ここで「気づいている」ということにしてしまう訳ですね。
→大佐と兄様、背中合わせでひとつのスポットライトの中に……。
大佐「俺はアイツの望みを叶えたい」
兄様「……私もだ」
大佐のセリフは力強く、もちろん葛藤もあるのだけれど、それを押し殺してでも前に進んでやるという、ある意味爽やかさを感じました。裏がない。しかし兄様の「私もだ」には、葛藤だけでなく重いものを感じました。何かを抱えた重々しさ。これは、兄様の「ウィルだけに背負わせてしまっている」という自責なのかなと感じました。大佐と兄様の違い。それは、ウィリアムに向かって手を差し伸べたかどうか……そう考えると、「自分がウィリアムを巻き込んだ」という後悔も含まれている気がします。
この二人、同じように「ウィリアムの願いを叶えたい」と思っていても、ウィルさんに対する想いの種類が違うので、湿度が違うんですよね。兄様の暗い声が不吉で、素敵でした。
→兄様がはけ、なんと大佐のソロ! 大佐の思いが伝わる、素敵な歌詞でした。
モランさんはシンプルに「俺はウィリアムに救われた。だから今度は、俺がアイツを救いたい」なんですよね。だからウィルさんも信頼しているのかも。
「ウィリアム、お前は孤独だ。俺はお前の孤独に寄り添いたい。でも、お前は進む」って。寄り添いたいけど、ウィルさんがそれを許してくれない、ってことですよね。つらい。つらすぎる。
「ひとりで戦う戦士になったとしても、俺はお前の望みを、お前の道を叶えたい」は、すごい忠誠心というか、愛情だなと思いました。「自分が孤独になっても、お前の願いを叶えよう」ってことですよね。つらすぎる。

・ルイスくんの兄さんソング、レベルが高すぎませんか? 「兄さん」のフレーズだけでも、ぶれないで一音ずつ下げるというのは難易度がものすごく高い気がします……。まるで星が降るかのような、「兄さん」の呼びかけ。「兄さんが僕を救ってくれた」「兄さんが僕の世界のすべて」「兄さんと一緒にいられるなら、この命捧げても構わない」→ルイスくんの兄さんへの愛情と、突き放されつつあることへの寂しさがあった気がします。「置いていかないで」と母親に縋る幼子のような。そんな心許なさがとても素敵だったなと思います。

・フレくんも登場。今回はモリ陣営個々人が、熱烈にウィリアムさんへの想いを歌ってくれるのですね、と感動。「ウィリアムさんは、いつも弱い人のために」「ウィリアムさんは僕のヒーロー」
→そうか。フレくんにとって、ウィルさんはヒーローなんだ、と改めて感じました。貧民街で、自分も弱い立場で、弱い人々を嫌というほど見てきたフレくんにとって、彼らを救おうとしてくれるウィルさんは自分を救おうとしてくれているも同義なのかもしれませんね。フレくんはいつも、弱い人たちに自分を重ねているように見えるので。

・ホワイトリー議員との取引の場面。オルガン×兄様。
→歪。ものすごく歪。一見するととても清廉な、神々しく優しい感じに聞こえるのだけれど、「その手に剣をとれ」だったり、なんだかすごく歪に感じました。何でだろう。

・ミル様×オルガン。ホワイトリー議員の家族が殺され、議員が警官を殺すか殺さないかで葛藤するシーン。
→歪だ……兄様より歪だ……当たり前ですが。恐怖を煽りますね。ミル様が悪魔というよりは、周りで踊っている傭兵たちが悪魔で、ミル様は彼らを従えているように見えました。上位の悪魔……的な?
→きれいはきたない、きたないはきれい(後で調べよう)
→悪魔がホワイトリー議員に「殺せ」と囁く、という感じですね。
→サムくんの遺体を見て「サム! お前がいない世界なんて……お前がいなければ、平等な世界を作る意味もない……!!!」と叫ぶ議員。言っていることはルイスくん→ウィルさんなのだけれど、やっぱり私には兄様と出会わずに、ルイスくんを失ったウィルさんに見える。
→「兄さん」というサムくんの声が甦り、殺してしまう議員。動きが洗練されている……手練れだぞ。
→殺しの直後の沈黙が、悪魔の囁きを振り切った? 議員の心情でもあり、そこからじわじわと湧き上がる罪悪感に焼かれるのもとても好きです。

・ホワイトリー議員を殺害したウィルさん。まぁ、そうですよね。そうするしかないよね……という演出。暗転してリールの音だけ流して、明転すると上にいる。そうなりますよね。

・ホワイトリー議員の死の間際、思い出す形でウィルさんとの話が。
→「あなたの命を僕にください」「僕が、犯罪卿だからです」=ここで全員にバラしてしまった形ですよね……。僕が、じゃないんですよ……。最初の演出で気づく、が入ったからいいのか……? でもちょっと納得はいかない。

・ホワイトリー議員の死の間際。階段に寄りかかって、犯罪卿のことを思うのが……。
→「いわれのない罪まで着せられて……。その罪の衣は、重かろう」
→このセリフがものすごく好きです。そしてこれが最後の歌の演出に繋がっていました。

・シャーロックのソロ。犯罪卿がホワイトリー議員を殺したのには裏がある、と歌っていますが……とても楽しそう。かっこいい。

・ホワイトリー議員を殺した事で、市民の怒りの感情が一気に犯罪卿に向く。一幕最初で「犯罪卿は義賊だ」と言っていた市民たちが「ただの悪党だ」と手の平を返す様は、清々しくもあり、悲しくもありました。
→舞台中央で、コートの上から市民に真っ黒の重いマントを掛けられウィルさん。(「罪の衣」)どこに行けども市民たちにも、貴族にも突き放され、たらい回しにされる。どちらにも恨まれ、嫌われ、世界の中で孤立していく孤独。
→舞台中心に座り込む姿が、助けを求める子どものようにも、歩くことができなくなって途方に暮れる旅人のようにも見えました。世界の中にいながら、ひとり、誰にも顧みられることがない。

【二幕】
・シャロさんの推理のソロ。
→ヴァイオリンの手弾きかっこいい!! 背中合わせでシャロさんの後ろで弾いているの、なんだか相棒! って感じがしてしまった!!

・メアリーちゃん、高音めっちゃキレイ!!! 歌上手い!!

・レストレード警部のソロ
→上手いんだよ……上手いから面白んですよ……笑
→いつもみんなを引き連れてソロやるの、いいなぁ。昭和歌謡笑

・モリ陣営からウィリアムへの歌
→「ウィリアムの名が世に広まる」「ウィリアムの名が世に刻まれる」=世間に『犯罪卿』として認識される。石を投げられるようになる。
→「心は千々に乱れて」=①ひとりひとりの心がどうしようもないくらいに掻き乱されている、ということか。②モリ陣営の心がバラバラになっていく、という意味もありそう。団結していた彼らの心が、バラバラになっていく。
→兄様「進め、この道を」、大佐「何があってもお前の道、お前を守る」、ルイスくん「兄さん、僕の前からいなくならないで」、フレ「ウィリアムさんを信じる……信じなきゃ」=〈兄様〉力強い歌い方、歌詞。だからこそ切なくなる。ともに死ぬからこそ耐えられたはずの喪失であるはずなのに、失うだけになってしまったというやりきれなさ。しかし「兄」であるが故に弟を止めることができなかったのだろうと思う。それなら自分の心を殺すしかない。「何もできないのなら、この道を進むしかない。彼が決めた道をともに進んで行くことだけが、今の自分にできることなのだから、それをやりとおせ」という自分への鼓舞に聞こえる。〈大佐〉決意。大佐にとって自分よりもウィルさんが大切で、そのためなら自分の何を賭けても構わない、という感じがよく出ていると思います。この人も自分を押し殺すタイプなんだよなぁ……年長組……。ぐって手を握るの、すごく好き。わかりやすい決意の形で、自分を殺すその手がとても……。〈ルイスくん〉この叫びは本当に素直。素直だからこそ悲しいし、胸を打つ。この頃のルイスくんはまだ巣立つ前の雛鳥なのかもしれない。二人で生きてきたからこそ、普通の兄弟よりもずっと強い絆で結ばれていた。兄さんが世界の全てになってしまうほどに。だからこそ、眼を逸らせないほどに近くに来てしまった喪失に、誰よりも恐怖を覚えている。ルイスくんにとっては、世界が壊れてしまうことなんだよね……。〈フレくん〉一番意外だった。そして、一番好き。「本当にこれでいいの?」という最初の自分への問いかけ。これは多分やっていることにではなく、ウィルさんひとりを犠牲にしてしまうから。自分たちの罪まで全て被って表に出て行ってしまうウィルさん。自分たちは彼に守られてばかりになってしまう。それでいいのか?ということなのかな。その後の「信じる」はウィルさんが当初の予定通りにどこかで修正し、自分たちも一緒に連れて行ってくれるという希望的観測を信じる、信じたい、という気持ちなのか……? けれどウィルさんの性格を知っているからこそ、手放しにそれを信じられない。だからこそ「信じなきゃ」なんじゃないだろうか。ああ……フレくん……。

・221B友情ソング
→シャロさんの「なんで結婚すんの?」でちょっと笑いました笑 もうわかりやすく嫉妬してる。
→ジョンくんが……ジョンくんが人懐っこい大型犬みたいで可愛い……!!! シャロさんも自分で言ったことに照れたりしていて可愛い。爽やかないい友情だ……癒し……。
→221Bは伴奏の主旋律がヴァイオリンだけれど、音が明るくて爽やか。ピアノも柔らかくて、本当に素敵。癒しだ、癒し。
→ジョンくん抱きついた!!! 尻尾が見える……。
→最後のハモリ!! 今までなんでなかったの?! っていうくらいにキレイ。好き。シャロさんの歌い方も優しくていいなぁ。
→シャロさんの「ジョンがとられる。いなくなってしまう」という焦燥が、ジョンくんの歌で溶けていく感じで、尊い。この二人の友情、永遠に見ていたい……!

・民衆→ウィルさんソロ→兄様ソロ
→温度差!!! 風邪ひく!!!
→民衆の怨嗟の声。多分、ウィルさんの夢の中なんだろうな。指をさされたり、少し乱暴な手つきで扱われるウィルさん。味方がいなくなり、全てが敵になってしまった。「お前が悪い」と責め立てられるのに、夢の中ですら見ていることしかできないのだろうか、と思うと悲しい。
〈ウィルさん〉
→「罪のすべてを負え、我が心」=Op.3の「共に重き荷を負いて」の返答とも取れる。
→「石に打たれ歩く、荊道」=道を照明で作っているの、好きですね。ああいうフィルターなのか、それともピンスポを狭くして作ってるのかな……?(わからん)
→「罪の血は拭っても消えない」=最後の事件の時の、井戸で手を洗うウィルさんを思い出しました。
→「罪の荷につぶれたこの心」=「苦しい」という言葉をまっすぐに言わないところが……。ミュのウィルさん、もう限界よ……。
→「ああ、愛しき仲間たち。どうか美しき世界で生きて」=この男は……あまりにも残酷な願いなんだよそれは……。
→赤い布で炎を表現していて、それがウィリアムさんにまとわりつくのが、完全に地獄の火の海で焼かれる罪人なのだけれど、十字架にかけられて火刑に処される魔女にも見えるんだ……。
〈兄様〉
→バルコニーからウィルさんを見下げる構図が、高みの見物というか、共にいられない、という心の距離のように思えて……。手を差し伸べるのだけれど、その手はもう届かない……。
→「ゲッセマネの丘でひとり祈る」=やっぱり兄様にとってはウィルさんは救世主なんだなって……。ステンドグラスのあの瞬間から、変わらず救世主なのね……。
→「思い知れ、弱き我が心」=ウィリアムさんに全てを背負わせてしまっていることを一番後悔しているのはこの人なんだよなぁ……。わかっているのに、そのウィリアムさんに何も言ってやれない自分の弱さ。その自分の弱さが弟を苦しめているのがわかっているから……ああ、やりきれないよ兄……。
→「この身、この魂を、煉獄へ」=ここまでの顔を覆って苦しむ兄様とても好き。そして十字きってる……! この人、殺人はやるんだけど信心深いですよね。
→「これしか言えぬ兄を、どうか呪ってくれ」=呪いなんだ……許してほしいとは思わないってことですか……。でも、らしいと言いますか。兄様らしい。重いよ、思いが……。
→「一人じゃない」と兄様が言った後のウィリアムさんの返答への間が……。その言葉に縋ってしまいたい自分を振り切ってるんだなって……。
→足早に去っていくウィルさんとそれを見送る兄様……。心が離れて行っているなって。距離感が… …。一度も目が合わないというのも……ウィリアムさんが意識的に兄様から逃げているような、そんな感じがしますね。

・三つ巴の時の照明! 三角形!!

・ウィルさんが客席に降り……?!

・「お前が良かったし、お前じゃなきゃダメだった」が葛藤の末の言葉に聞こえて……。その後の「お前で良かった」も底抜けに明るい、喜ばしい感じではないのがよかったなと。自分のエゴと友人の身と、それを天秤にかけた末の言葉のような気がして。

・ウィリアムソロ
→「凍えた僕の魂を消し去って」=一幕の「君の光は強すぎる」の延長のように聞こえる。光で焼いて消し去って、的な。
→中央で跪いて……?!
→最後にそのままストップモーションに入るのが……。

・シャーロックソロ
→I will catch you Liam
→すべてを解き明かし、お前の心を捕らえる=もしかしてこの時点で、シャロさんにはウィルさんが死に取り憑かれていることがわかっている……? 心を捕らえる、は「生の側にとどめてやる」とかそういう意味なのだろうか。

・「運命の車輪は回る。地獄か、奈落か」

・全体的に「問題ないよ、ルイス」っていう時のウィリアムさん、本当にお兄ちゃんって感じがして……。とても柔らかくて、安心させる声なのよね。それがルイスくんには一番辛いんじゃないだろうか。その声が、逆にルイスくんを孤独にしている気がした。


【最後に】
 敢えて削りましたが、感想には一幕に「孤独」、二幕には「友情(221B)」「想い(モリアーティ陣営)」の文字がありました。
 一幕に感じたのは、まさに孤独。ウィリアムだけでなく、モリアーティ陣営のそれぞれの間に少しずつ綻びが生まれ、組織として壊れていく孤独。言わずもがな、ウィリアムがひとりで抱え込んでしまった孤独。さまざまな形の孤独が表現されていたように思います
 二幕では、221Bとモリアーティ陣営の対比が印象的でした。屋上のシーンで221Bの二人は固く絆を結びます。それは例え物理的に離れたとしても心は離れないという誓いのようでもありました。他人だった彼らが、友情によって結ばれ、ひとつになる。一方で同じ志によって結ばれ、ひとつであったはずのモリアーティ陣営は段々とバラバラになっていく。その対比が照明や脚本の雰囲気でひしひしと感じられました。
 そしてミルヴァートン邸で両陣営の思惑が交差する。
 まさに止まることなく、ここから運命の歯車は回っていくんですね。

 見応えのある、素晴らしい舞台だったと思います。
 Op.3までよりもひとりひとりの心情を鮮明に描いてくれていた印象が強いです。だからこそつらかったのですが。
 ただ、時間が足りなかったとはいえ、四つの署名がかなり駆け足だったことだけが残念です。犯人はふたりに繋げるには必要なエピソードであり、しかし最重要エピソードではないというもどかしさがあったのだと思います。脚本・演出の悩み、葛藤を見た気がしました。



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