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「あの子のむかし話」⑥(こうちゃさん著)

 こうちゃさんからいただいた小説連載の続きとなります。今までの話はこちらからどうぞ。


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 6

 昼の散歩に行こう、と提案されたのは午後三時だった。お母さんはいいよと言ってくれて、わたしは栞さんと散歩に出かけることになった。
「よろしくね、美也ちゃん」
「むふふ〜」
 今日ぶんの課題を終えた、ごほうびだ。わたしはいつも通りバタバタスニーカーを履いたら、玄関にはキレイな白いパンプスが並べられていた。
 わたしがそれを見ていると、後ろから「どうしたの?」と言われた。
「これ、栞さんのくつなの?」
「うん、そうだよー」
「わたしもしょうらい、こんなのはけるのかな~」
「ふふ、そうねえ」
 栞さんはそれをゆっくりと履いた。すると、一歩歩いて、その大きなしろい手が、玄関の屏風をがららんと開ける。夏の爽やかな快晴が地を焼くような暑さの中、栞さんは傘立てに携えた美しい日傘をそっと持ち、差す。その後、わたしをこっちこっち、とやさしく手招いた。
「……えっ」
「ん?」
「な、なんでもない!」
「どうしたの?」
 その光景が、脳裏に焼き付いて離れない。
「美也ちゃん?」
 ……わたしは、変な緊張感を持ったまま、その背中に誘われるように着いていった。ひなたに向かう道のりには、おおきな入道雲がもくもくとむくれていた。

(続く)

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