「あの子のむかし話」プロローグ(こうちゃさん著)
こんにちは。宮尾美也世界一可愛いの会(@miya_kawayoi)と申します。
今回から、こうちゃさん(@koucha_32)よりいただいた小説の連載を始めます。紡がれるのは、美也の過去のお話……。
ぜひお楽しみください。
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プロローグ
時計の短針は三時を指していた。茶髪の少女はソファーで、昼下がりの陽光のように伸びていた。ひと息ついて、彼女は外を眺めている。窓から伸びる木陰の揺らめくさまに、一抹の幸せを見つけたようだった。
その傍らには、少し分厚い本がある。バッグに入れるには、とても分厚い本。彼女はそれを開くのが楽しみで、今日のレッスンをいつもより頑張っていた。
「むふふ。誰もいないから、こっそり見ているようで、なんだかどきどきしますな〜……」
すると、後ろの方からカチャ、とドアが開く音がする。
「ヤッホ!あ、ミヤだ〜!」
「わぁ〜、エレナさ〜ん、お疲れさまです〜」
「ミ〜ヤ!」
エレナはそういって、美也に背後から飛びつく。抱きしめられた彼女は、すこし戸惑いながら言う。
「エレナさんは、大胆ですな〜」
「えへへ、ミヤって、ぎゅーってしたくなるのよネ〜」
「そうなんですか〜?」
「うん!ホーヨー力、って言うのカナ?」
「むふふ、そうですか〜」
しばらくすると満足したのか、エレナはすぐとなりのソファーに座る。
「で、どうしたノ、ミヤ?」
「はい〜。エレナさん、これ、なんだと思いますか〜?」
「それは……アルバム?」
「そうですよ〜。おじいちゃんが昨日、私宛てに送ってきたものなのです〜」
「ワオ!ってコトは?」
「ふふふ〜、そうなんです〜。昔の写真がいっぱい入っているんですよ〜」
「え〜! ……じゃあ、ミヤの小さい時の写真、見られるノ!」
「はい〜。おじいちゃんが昔の倉庫を整理していた時、使っていたカメラを見つけたと言っていました〜。なにぶん可愛い孫の写真が沢山あるんだ、と言って、昨日帰ってきた時、ポストに投函されていたんです〜」
「ワオ!さすが、ミヤのグランパ……いや、おじいちゃん、ダネ!」
「むふふ〜。カメラがフィルム式だったので、なかなか手こずったそうですな〜」
「フィルム?」
「昔のカメラは、フィルム式だったんですよ〜。カメラ屋さんも、おじいちゃんが昔からお世話になっているお店で、まだ機材が残っていたみたいです〜」
「へー……、いいな〜、ノスタルジック!、ってヤツだネ〜」
「そうですね〜。確かに、タイムカプセルが出てきたみたいで、ワクワクしますな〜」
そういって、美也とエレナは、アルバムを開くことにした。見開きのページには、まだ中学生くらいの面影を感じさせる美也が写っていた。
「これ、ちょっと恥ずかしそうだネ〜」
「わたしが、初めて制服を来た時の写真です〜。おじいちゃんが、撮ってくれたのですよ〜」
「へぇ〜。あ、これ!ミヤの……おじいちゃん、だよネ?」
「そうですよ〜」
「えへへ、なんだかカッコいいネ〜」
「そうでしょうか?不思議な感覚ですな〜」
そうやって、エレナは次々と美也のアルバムを見ていく。
彼女自身の歴史を紐解くように、様々な写真が載ってあった。例えば――
七五三の時に、おめかしをしてもらった時の、恭しさが残る写真。
台所に立ってパンを切っている写真と、ちょっといびつな形をしたサンドウィッチの写真。
七分開きの桜の下で、もこもこした編み込みセーターを着て、ごろんと寝っ転がっている写真。
夏祭りに出かけたのか、浴衣を装って街の角で佇む写真と、縁側でのんびりとおじいちゃんと将棋の施しを受けている美也の写真――
すると、ある写真を見つける。
「……あれ?この人はダレ?」
「おお〜!懐かしいですな〜」
「もしかして、ミヤのお姉ちゃん?」
「いや、違いますね〜。でも……」
ふと、どこか遠い顔をする彼女。エレナは、その刹那のように見えた表情が、どこか温かいものだと知った気がした。
「……一緒に撮っていたんですね〜」
「……どんな人なの?」
「不思議な人でしたよ〜」
「えっ!ワタシはミヤも充分、フシギだと思うけどナ〜……」
「そうですか〜?むふふ〜」
そう言って、美也は続けた。
「この方は、わたしがアイドルを目指すきっかけをくれた、大切な、おねえさんなんですよ〜」
「えっ、アイドルを?」
「はい~。それは、むかしむかし、ある出会いがきっかけで、仲良くなったのですが――
(続く)
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