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「あの子のむかし話」⑤(こうちゃさん著)

 こうちゃさんからいただいた小説連載の続きとなります。今までの話はこちらからどうぞ。


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 5

 勉強は、栞さんがいろいろ付け加えてくれて、丁寧に教えてくれた。わたしが「わからない」っていうと、栞さんが、「これは、こんな感じに考えてみて」とヒントをくれる。いじわる、という感じは全くなく、温かな人だった。
 一通り終わった後、栞さんが聞いてきた。
「美也ちゃんは、授業だとなにが得意?」
「えー?むーん……」
 少し考えてみる。わたしは、勉強は嫌いなのだけど、何が好きかと言われたら……たぶん、社会が好きだ。なんでかって言うと、おじいちゃんの話が好きだからだ。おじいちゃんは、歴史の小説を読むのが好きで、わたしはそれを聞いていると、感心してしまうからなのだ。まだよくわからないことばかりなのだけど、それを聞いて、得意げになるのが好きなのだ。あと、おじいちゃんはよく博物館に連れて行ってくれるのだ。あの静寂と荘厳さが醸しだす高尚さに、わたしは惹かれてしまうからなのだ。
「……社会が好き、かな、たぶん」
「へ〜。珍しいね!」
「え〜、そんなにかな?」
「うん!私は国語は好きだったんだけど、社会は苦手な方だったんだ」
「なんで?」
「社会はね、えっと、地理が好きだったんだけどね、大抵は日本史のことばかり取り上げられるから、真面目にやる気が起きなかったな」
「ちりと、えーと……にほんし?」
「……要はね、歴史のことよりも、日本の自然を知ることの方が好きだったの」
「ふむふむ……なるほど〜」
 わたしは、今の語る栞さんがカッコよく見えた。さっき勉強は苦手って言っていたはずなのに、やっぱりよく物事をよく知っていて、そんな人もかつて小学生だったのかなと思うと、やっぱり不思議な気持ちになった。
 すると、受話器が鳴った。お母さんがそれを取ると、丁寧に話している。どうやらおじいちゃんみたいだ。
「おじいちゃんだ!かわってかわって!」
「はいはい」
 わたしは受話器をもらう。
「おじいちゃん、今日はどうなの?勝ってる?」
 わたしはおじいちゃんが好きで好きでしかたがない。わたしの自慢のおじいちゃんなのだ。
「うん、うん、へー、それはよかったね!あ、そうだ!わたし、いつもそこのじどうはんばいきに売っているアイスバー、また買ってきてほしいなー。……うん、……うん!また後でねー」
 わたしは受話器を置くと、元の座布団の上に、足を組み直す。
「おじいちゃんからだったよ」 
「美也ちゃんにはおじいちゃんがいるの?」
「うん! ――と〜っても大好きなんだよ、おじいちゃん!」
「へぇー、ふふ。おじいちゃんっ子なんだね」
「むふふ〜。今日のおじいちゃんは、いつものしょーぎなかまを負かしにいくってやる気まんまんだったの」
「それは、すごいね……」
「おじいちゃんはね、わたしにもしなんしてくれるんだよ。きょうしゃをたくみにつかうものは、しょーぎのきょうしゃだ!って言ってました」
「そ、そうなの……」
「でねおじいちゃんは、わたしの料理をおいしそうに食べてくれるんだよ!この前、サンドイッチをひとりで作ってみたんだけど、うまくいかなくて……わたし、こんなのだれにも食べさせられない〜ってなったの、でもね、おじいちゃんはひょいって食べてくれて、おいしいって言ってくれたの!だからね、まいにちまいにち作ってみたら、わたしサンドイッチがうまくなって、しかも好きになったんだ!」
「へぇ〜!すごい!」
「むふふ〜」
 わたしは得意げになった。栞さんはわたしの話を楽しそうに聴いてくれる。だからわたしはもっともっと話してやろう、と思った。

(続く)

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