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「あの子のむかし話」⑨(こうちゃさん著)

 こうちゃさんからいただいた小説連載の続きとなります。今までの話はこちらからどうぞ。



 9

「う、うん?」
「むふふ〜、わかってしまいましたよ〜」
「あ、あの……」
「じゃあわたし、栞さんのファンになっちゃったんだ」
「そ、そうなの……」
 すると、栞さんはまた笑った。
「もう、美也ちゃん……」
「むふふ〜」
 栞さんはこの時、すっごい笑っていた。おかしい、なんて言いながら。その後、こう話した。
「美也ちゃんの前だと、暗い顔ひとつもできない
ね」
「え~?」
「ふふ、本当に。美也ちゃんといるとね、私はなんてちっぽけなことを悩んでいるんだろうな、って思っちゃった。昨日会ったばかりなのに、こんなにも美也ちゃんと出会えて良かったなんて、私は思ってるくらい」
「わたしもおねえちゃんができたみたいで、すごくうれしいよ~」
「ふふっ。あとね、美也ちゃんにはいろいろ負けちゃうんだろうなー、って思った」
「むーん、どういうこと?」
「うーん……。それくらい、美也ちゃんといることが、その……、ね。……しあわせだなって」
「……?」
「うん、やっぱり、そうみたい。美也ちゃんはね、私にとって、アイドルに見えた。おじいちゃんや、お母さん、お父さんもね、こんなに幸せな気持ちで満たしてくれる子なんているのが、羨ましいくらい。だから、アイドルみたい」
「むーん……、そうなの?」
「うん!そうだよ。アイドルが、こう言うのよ」
「む、むふふー……」
 栞さんは、そう言うと、わたしを抱きしめた。
「わっ、なに?」
「ふふっ、美也ちゃんが、つい大好きになっちゃったから、お返し」
「むーん、なんで〜?」
「なんでも」
「あつ〜い」
「もー、せっかくぎゅーってしてるのに」
「むふふ〜、でもお母さんみたい」
「そう?なら、良かった」
 辺りは落ち着いた喧騒になり、夜風がどことなく吹き始めていた。栞さんの髪が少しだけ揺れて、いい匂いがした。
「ねー、栞さん」
「なーに?」
「ふふ、よんだだけ」
「なにそれ、ふふっ」
 本当は、わたしも大好きって言いたかった。

(続く)

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