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消えればいいのに

大学二年の夏ごろからは、大変な時期を過ごした。そして今も過ごしていると思う。

一年生の春休み、高校の友達と伊豆に行った。そこで私は かの有名なマッチングアプリ『Tinder』を用い、ある男性と出会う。

彼の名前はT。他大学で、アメフト部だった(当時)。

ここまで書くと本人がこの記事を見ていれば特定されるかもしれない。

いや、特定されることはない。彼は忙しそうだからこのような記事にヒットするほど、ネットを見ていないだろう。それに特定されたっていい、むしろ私の現状が伝わるならば。


夢だったのかもしれない

彼はとても面白い人だった。面白すぎて、就活なんかせずにお笑い芸人にでもなればいいのにと思っていた。伊豆のコテージで、女3人で爆笑したのを覚えている。

旅行が終わった後も尚、私は彼とTinderでチャットを続けた。それはそれはとても面白く、彼に「LINE交換しようぜ」と言われたときはなぜかとても嬉しかった。

LINEに移ったのち、距離が縮まるのはとてつもなく早かった。そもそも彼は距離の縮め方がおかしい人だった。急に私にAmazonのアカウントを教えてきて「三月のライオンを見ろ」と言ってきたり、変なミックスジュースの歌をボイスメッセージで送りつけて私を笑わせたりした。

私が伊豆に行っていたのは2月だったから、初めて会う3月までの約一か月間、すさまじい量のLINEをしていた。私も彼も、LINEが来てから数分後には返信をしていた。即既読はデフォ。楽しいラリーだった。

だいぶの割合で下ネタも挟まれたが、そんなに嫌な気がしなかった。むしろ私は、それへの面白い返し方を学んでいた。


新宿駅の東口

何回か電話をして、仲良くなった後、「飯行こうぜ」と言われた。その時私は学内の部活動に足を踏み入れかけていた(今思うと自分が何をしたかったのかよくわからない)。

そして初めて会ったのは新宿駅の東口。彼が声をかけてきたときのことをなぜか今でも鮮明に思い出せる。楽しい食事だったが、「別にそんなかっこよくないな」とその時の私は失礼ながらに思っていた、ことを覚えている。話しながら西口まで移動し、彼の部活の友人が働いているバイト先に連れていかれた。

その日はピルクルで乾杯をし、今ではコンビニでピルクルを見ると気持ちが暗くなってしまうのだが。とりあえず懐かしい思い出。


お台場

もうここまで書くとどうか本人がこの記事を読んでいませんようにと祈るしかない。彼はお台場が好きなようだった。私は彼の運転でお台場に行き、それはそれは楽しい時を過ごした。私はなんとなく、少し大人になれた気分だった。車の助手席から見た景色はなぜか今でも思い出せる、鮮明に。

家の近くまで迎えに来てくれたのだけど、正直気分が乗っていなかった。部活に入るかどうしようかでモヤモヤしていて、親と電話しながら待ち合わせ場所に向かっていた私は、多分不機嫌な顔で現れたと思う。デートどころではなかった。ちょっと話がずれるが、なぜあの時私は部活に入ろうとしていたのだろうか。頑張ってる集団に憧れ的なものを持っていたとは思うが、実際入ろうとしたら不満が出てきたのは本当になぜなのか。自分が何をしたいのか本当に分からなくて嫌気がさす(それは今も変わらない)。

お台場では、ジョイポリスに行って、お化け屋敷に入ったりした。一丁目商店街で宝釣りをやったら、セカオワのピエロみたいな変な人形が出てきた。「なにこれ」と言ってその人形は彼にあげた。一応写真を撮っておいたけど、今ではあの出来事が夢ではなかったと証明する、証明写真になった。いろいろ書くと長くなるので、楽しかったとだけまとめる。このころから私は彼のことが気になり始めていた。


渋谷

三回目に会った時私はもう、彼のことが好きだと自分の中で「錯覚」していた。大学に入ったもののなかなか出会いの機会に恵まれなかった私にとって、男の人とこんなに仲良くなってデートまでする関係になったのは初めてだった。

渋谷の井の頭線の改札らへんで待ち合わせた。なぜか私の友達も一緒だった。でもこの時彼女がいてくれたことで、彼の存在は「夢」ではなかったのだと証明する、いわば証人に彼女はなった。

バルで適当にご飯を食べた後、友達は帰り、私とTはダーツバーに行った。彼はたばこを吸っていた。お台場に行った時から、彼はヘビースモーカーだと気付いていた。ときどき私を置いてタバコを吸いに行ったりした。その間私はひとりで「つぶつぶアイス」とやらを買って食べたり、彼の車の助手席でスマホをいじったりしていた。

ダーツのやり方を教えてもらって、彼がたばこを吸うのを向かい越しに見ていた。「吸ってみる?」と言われ断ったことまで覚えている。あの時吸っていたら、何か変わっていただろうか。


その日の夜

その日の夜私は、彼に電話で告白した。人生で初めての告白。自分が告白をする日が来るなど思ってもいなかった。

「付き合ってもいいかな、、と思ってる」とか意味の分からないことを言った。そしたら彼に、「俺のこと好きってこと?」と言われた。なので「うん、好き」と言った。

自分でもよく頑張ったと思うが、なぜか彼にも「よく頑張ったね」と言われた。結果は、付き合えなかった。「でも好きって言ってくれたのはうれしい、ありがとう」と言われた。

彼は私を傷つけないように、それはそれはよく配慮してくれた。「今は彼女とかいらない。み だからじゃなくて、誰に対してもそうなんだ。それだけはわかってほしい」と言ってくれた。

彼は本心からそう言ってくれているのだと思ったし、それを受け入れた。電話を終えた後、もちろん大きなショックというか、空虚感はあったが、今ではそれほど大ごとではない。それよりもつらい出来事が私を待ち受けていた。


LINE電話

その後も連絡は取り続けていた。しかし人間、永遠に連絡を取り続ける相手などいない。いつかは続いたLINEにも終わりが来る。

連絡を取る頻度が減り、一カ月ほどLINEをしない状態になった。その頃、6月。LINEをしていない一か月間、私はずっと彼のことを気にしていた。振られたけれど、彼のことが人として好きだったので、会いたいし、前みたいに毎日楽しくLINEもしたいと思っていた。しかし彼からはLINEが来ない。前だったら毎日来てたのに。すぐ返信してくれたのに。

「私に飽きちゃったのかな」とか思い出す。今思うとこれがよくなかった。私は彼に依存していたのだろうか。一人で悶々としていた私は、ついに彼に電話をすることになる。

電話の内容は省略するが、今思うと彼女でもないのにまるで彼女か?と思うほど、彼女気どりだった私は。ひどかった。頭がおかしかった。「もっと連絡してほしい」「前みたいにLINEしてほしい」「飽きちゃったのかなって思って」「ちゃんと対応してほしい」めんどくさいと思われても仕方なかった。

しかし思うに、彼にも悪いところはあった。ちゃんと私に対応してくれない部分があった。「遊びたい」といっても返事をはぐらかされて、彼が私に会いたいときにだけLINEがきたりした。意味が分からなかった。

Tは典型的な体育会系の人間だった。人との繋がりを重んじ、何より同性との友情を大切にしていたように感じた。私はそんなTの人間性を見抜き、いいなと思った。しかし彼のことを恋愛対象として見ていた私と、私を友達として見ていた彼との間にはギャップがあった。

私は親しい友人にTのことを相談したことがあった。「最初向こうから私と仲良くしようとしてきたのに、いざ私が遊ぼうっていうとちゃんと対応してくれないんだけど」という感じで話していた。友達は「それは酷いね。都合よく扱われてるよ」と言った。恋愛でよく言われる、「都合のいい女」というやつだ。

なんと私はこのことを彼に言ってしまった。これは良くなかった。案の定彼はブチ切れた。「じゃあお前は、他人が自分の友達のことをアイツは〜だと言ってたら嫌いになるのかよ」と言われた。違う。そんな、人の言葉1つで、自分の大切な友達の評価を決めたりしない。けど私は男女関係においての彼の行動を非難したのだ。彼の話は、「友達」の領域において進み、私の話は「恋愛」の領域で進められていた。この、どうしようも出来なかったズレが原因で、彼は私に対して「価値観違いすぎだろ」と電話で言い放った。


消えていなくなった

その電話の翌日、彼からLINEが来た。内容はこうだった。

「やっぱやめようぜ26日!」

もう会うのはやめよう、もうLINEもしないよ、俺のことは忘れてくれ

突然来た別れ。パソコンを見ていた私は、視界の隅に彼からのメッセージ通知を受け、頭が真っ白になった。何事かと思い急いで既読を付けた。

「昨日の電話で話してて、ちょっと合わないなーって感じるし、お互いストレスになりそうだからな!」

ああ一生の別れなんだと察した。

「うんわかった。悲しいけど、ありがとう」

と送った。その一か月後、私は短期留学する予定だった。それは彼にも伝えてあったので

「じゃ、留学がんばれよ!」

と。それが最後のメッセージだった。そのあと送ったうさぎのスタンプには永遠に既読が付かなかった。


そして彼は消えた。


耐えられない

放心状態になり、何も手につかず、次の日から大学に行けなくなった。一週間ほど大学を休んだ。月曜日には出席が厳しめの英語のコミュニケーションの授業があったが、とても行けそうになかった。ずっと部屋で引きこもっていた。音楽が無いと死にそうで、Billie EilishやAdeleの暗い曲を聞きまくっていた。泣き疲れた顔で美容院に行き、ブリーチしてインナーカラーを入れた。

もう、無理だった。全てが無理だった。

彼にはLINEをブロックされた。インスタもブロックされていた。死にたいと思った。二度と会えないじゃん。共通の友達もいないし。無理じゃん。消えたい。いなくなりたい。


彼は私に一切手を出さなかった。下ネタばかり言ってきたけど、指一本触れられなかった。未成年だからと、お酒を飲ませようとせずピルクルで乾杯してくれた。彼もお酒を飲んでいなかった。今思うとそんな小さな誠実さが好きだった。彼は一見ふざけたように見えて真面目だったのか。去年の19歳の誕生日を祝ってくれて、LINEのタイムラインにバースデーカードを書いてくれたりした。その頃は1年後こんなことになるなんて思いもしなかった(今年はバースデーカードを更新したくなくて消した、多分来年もそうすると思う)。ご飯はいつも奢ってくれた。運転がとても上手くて、私だったら絶対事故る東京の街をなんなく車で走った。お台場で彼にあげたピエロの人形は、彼の車にまだついているのだろうか。なにかと気に入ってくれて可愛がってくれた。声が大きくて、お笑い芸人かと思うほど面白くて、ふざけ倒してて。

そんな彼は私にとって大人を感じさせてくれて、お兄ちゃんみたいだった。きっと、恋愛としてでなく、人として好きだったのだ。尊敬していた。Tという人間性が好きだった。


今でも何かを引きずっている

そんなTとの出会いから一年が経ち、だいぶ彼の影は薄まったものの、今でも私は心の中に何かを引きずっている。二日に一回くらいは彼のことを思い出す。彼は今年大学を卒業しもうあと三日ほどで社会人になる。もう同じ「大学生」ではなくなったのだなあと思うと何故かホッとする部分がある。

でもなぜだろう、彼と出会わなければよかったとは思わない自分がいる。むしろ、出会わなかったとしたらと考えると恐ろしくなるのは、なぜ?

時を戻してやりなおしたい、とよく思う。しかし時が戻れば、彼とも出会っていなかっただろう。そう思うと、恐ろしくなる自分がいるのは、なぜ。それほど彼との出会いは私にとって大きく、衝撃的で、私の人格もきっと変えた。まあ、彼にとっては私との出会いは小さなことだろうが(と思うと悲しくなってくる)。

彼は私のことをメンヘラといった。メンヘラってなんだよ。人を好きになることで「メンヘラ」なんて呼ばれる世の中ってなんだよ。自分でもわからないよ。私に一年間もこんな思いをさせて、深く傷つけておいて、でも本人は後輩に見守られながら部活を引退し、仲間に囲まれ、楽しくやっている。一方の私。私ももう彼のことを忘れ去り、明るく過ごさなきゃとわかってはいるけれど…。

11月の秋ごろ、彼にインスタのブロックを解除されていた。彼とまた会いたいと心のどこかで思っている私にとっては、大きな一歩だった。光が差し込んだみたいだった。彼とお別れしたのは7月ごろだったけど、まだ私のことを覚えてくれているという事実が証明されたも同様だった。そして、まだ私のことを考えてくれているんだと希望で満ち溢れた。きっとこれは、恋愛において用いられる「未練」というよりは、私の価値観を変えてくれる程の影響力を与えてくれた彼にまた会いたい、つまり、やっぱり、恋愛の領域で彼が好きだったという私の気持ちは「錯覚」で、私はTを1人の人として好きだし尊敬していた。そこまで思わせてくれる人と出会えたのに、二度と連絡が取れなくなったなんて辛すぎる。

このデジタル時代に生きていなければ、ありえなかった出会い、そして別れ。それぞれの人生を歩んできた中で、直接かかわりは無かったのだから。そのような人とも出会える時代。そしてその分、私の心に残った傷跡も大きかった。今回の経験は、私の「人とのつながり」への認識を変えた。

日常で一切の接点がない分、彼の存在は今ではもう儚げで、私の人生からいなくなったように感じるのだ。「消えた」この言葉が良く似合う。Tという人と出会って、悩みを相談してアドバイスをくれたり、ジョークを言い合って笑いあったり、一緒にダーツしたり、たこ焼き食べたり、熱が出たと言ったらいきなりLINE電話が来て「大丈夫?」と言ってくれたり、彼の車でポケモンGoをやらされたり、変な自撮りを送ってきたり、友達と渋谷のねぎしにいる時に急に電話してきたり、「み がくれたピエロの人形は俺の車にまだついてる笑笑」とか人形あげた1か月後に言ってきたり、就活のこと教えてくれたり、スマホ依存症になるほどLINEし合ったり。
あの時間は全て夢だったのだろうか?

人と会えなくなって縁が切れたようになってしまうのって、こんなにも辛いんだってこと。

彼は彼なりに考えた結果、私との関係を切ったのだろう。彼は最後までいい人だった。きっと私の気持ちをもてあそぶようなことをして、申し訳ないと思っているに違いない。きっと、気持ちの重さが違った。それだけのことで。

そして私の心の中になにかモヤモヤがあって、いなくなってくれない。毎日を明るく楽しく過ごせているのかわからない。明るくふるまっているようで、暗い気持ちがドッと押し寄せ、自分でもどうしようもなくなる。でも笑うしかないからバイト先の社員と喋って笑うし、必死に明るくして彼の影なんてないことを演じるし、YouTubeでぺこぱを見るし、悲しい音楽を聴く。


彼との別れがあってから、この「急に悲しい気持ちがドバっと押し寄せる現象」が起こるようになり、私を悩ませて止まない。一体いつまで苦しめばいいのだろう?私の大学生活はどうなってしまったの?私の大切な時間を返して。


今までの話は全て小説です。


といったらあなたは信じますか。










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