可憐なだけじゃ
春はいい。どこを歩いていても、花を見ることができるから。
今の時期、可憐で繊細な姿を見せてくれる藤の花。藤といえば、幾重にも重なるカーテンのように藤棚からしだれる姿を想像する。というより、藤は藤棚で咲くもの、そう思い込んでいたのだ。
ところがなんと、我が家の近所で藤が自生していた。名前も知らないもさもさと生い茂る川向こうの木に絡み付いてる。木の指先から垂れ下がるように、木の頭部に馴染むように、あの小さく繊細な藤の花がそこかしこに咲いていたのだ。
藤の花って自生するんだ。
愚かな私は、そんなことを思ってしまった。植物が自生するなんて当たり前のことなのに。
人間なんぞの手がなくたって花は美しく咲くのだ。行きたい方向に蔓を伸ばし、好きなところで自由に咲いている藤の花は、どんな立派な藤棚よりも美しかった。
可憐なだけじゃない。逞しく力強い藤の花は、迷ってばかりの私に勇気をくれる。
「好きなところで自由に咲けよ。わたしのように」
そう言っているような気がして。
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