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Ithaca 買収の解説

HYBEの半期報告書の話をこそっとツイッターに書いたら、Ithaca Holdings LLC(以下、Ithaca)の買収の話、聞きたい!という奇特な方が数人現れまして。

分かるように解説できるかなと思いつつ、半期報告書に載っていることで分かる範囲で解説をしてみたいと思います。

注意事項

本編に入る前に注意事項を。

①今回の内容は全てHYBEの2021年度半期報告書をGoogle翻訳にて全ページ一括翻訳した物をベースに作成しています。そのため、翻訳が間違っていたり、翻訳過程で表がずれてたりする場合、この内容も間違っている可能性がありますのでご了承ください。また、下記の表、数値、引用は特に断りない限り全てHYBEの2021年度半期報告書から転載しています。

②HYBEの会計基準はK-IFRSですが、さすがにそこまで勉強していません。日本の会計基準及びIFRSを前提に進めます。

③今回は専門用語を噛み砕いて分かりやすくすることに重点を置いています。なので厳密にいうと違う所が出てくるかもしれません。明らかに間違っている箇所がありましたら @miw_jkookpen (ツイッター)までお知らせください。

④完全に1個人の趣味で書いてます。このnoteで投資判断等されても責任を負いかねます。

1.買収方法

今回の買収の内容、半期報告書によるとこんな感じです。

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上の契約内容から、買収形式を図解するとこんな感じになります。

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Big Hit Americaの下に子会社を作って、そこにIthacaを合併させるという、まぁよくある手法です。

ちなみにIthaca、音楽レーベルですが子会社が27社もあります。大体マネジメント代行業とレーベル、コンテンツ事業ですが、消費財事業(RF Boxing Investment CO LLC)とか公演制作業(Brickfest LLC)とかもあります。

2.買収価格

さて、ここからが本番。買収価格についてです。

まず一般的な話をすると、買収価格を決定するには、まずその会社の価値=株式価値を測定して大体の値段を把握します。それを元に色々なファクターとか交渉とか入札のための駆け引きとか、そういうもので価格を上げたり下げたりして、最終的な買収価格が決定すると思って貰えれば大体合ってます。

買収価格の元となる株式価値の測定には主に3つの方法があります。

①インカムアプローチ:企業が⽣み出す収益(キャッシュフロー)をもとに企業価値を算出する⽅法である。
②マーケットアプローチ:事業の類似する上場企業のマーケットにおける株価等の数値から相対的に企業価値を算出する⽅法である。
③コストアプローチ:貸借対照表に記載された資産・負債をもとに、これらを新規に調達した場合、どの程度費⽤がかかるかという⾯から企業価値を算出する⽅法である。

https://links.zeiken.co.jp/glossary/2191 より引用

それぞれメリットデメリットがあるのですが、大体大きな買収は①インカムアプローチのDCF法(discounted cash flow、割引キャッシュ・フロー法)を使うことが多いです。比較として②マーケットアプローチの類似会社比較法を使ってるのも見ます。(そんなことない!という現場の方、もしいらっしゃったら教えて下さい)

が、DCF法は前提となるキャッシュフローの計画がないと出来ないし、類似会社比較法は類似の会社を探してこなきゃいけないから面倒くさい。

ということで、今回は中間報告書にIthacaの資産負債があるので、②コストアプローチ、資産と負債の差額から企業価値を出す簿価純資産法を使って株式価値を簡易的に出してみます。本当は資産も時価評価したり負債も潜在的な負債を入れたりとか色々いろいろイロイロあるのですが(そのために買収専門の会計士が投入される)、ものすごーーーく簡易的にいきます。数字遊びと思ってお付き合いください。

半期報告書に載っているIthacaのBS(貸借対照表)を図解してみました。視覚的に分かりやすいかな?と数字の大きさと箱の長さを大体ですが合わせてあります。

HYBE-Ithaca - コピー



資産と負債の差額=株式価値が220,909百万₩(非支配持分がありますが無視してください。これ、私も謎。)に対し、買収価額が1,039,368百万₩。差額がのれん818,478百万₩。

のれんは「超過収益力」と言われています。ものすごく簡単に言うと、この会社はきっとこれから沢山稼いでくれる!だから純資産にこれだけのプレミアムを載せて買いました!というものです。そののれんが818,478百万₩。のれんの金額自体も大きいんですが「のれんの額が株式価値の4倍」ってのはなかなかないかと。

ちなみに、一番上の表では12,075億₩の代金支払いと書いてありますが、表の買収価額10,393億₩と違うのは各種手数料が入っているためと思われます。

3.PPA(取得原価配分)の話

少し会計学的な話になるのですが、本来のれんの価格を算定するためには、その前に「Purchase Price Allocation(PPA:取得原価配分)」というものを行います。簡単にいうと、帳簿に載っている資産負債だけでなく、簿外となっているけれどその価値を見込んで買収した物についても、その価値をBSで認識しようということです。商標や商号・顧客リスト・ライセンス・ロイヤリティ・技術などが代表的ですかね。価格をつけて無形資産と認識したうえで、残りの額をのれんとします(表示上はどちらも無形資産なので、BSとしてはそんなに変わらない)。

このPPAが今回「アーティストとの契約」であると見込んでいます。アリアナ・グランデとの契約価値がいくら、ジャスティン・ビーバーの契約価値がいくら、という算定をIthaca所属アーティスト全員分して、資産認識されるということです。これが期末の報告書で修正されてくると、のれんの額がもう少し下がります。これは会計基準上、期末までに行えば良いことになっているので、半期報告書には「算定中」との記載になっていました。

ここが分かると、HYBEがアーティスト価値にどれくらいの対価を見出したのかが分かってくるので、非常に面白いです(但しこの部分は、私が勝手に思ってるだけなので、もしかしたらPPA自体が行われないかもしれません。あると思うんだけど…)

ちなみに少しだけ裏話をすると、このPPAの作業、めちゃくちゃ大変です。価値が数字で出ていないものに根拠のある数字を(理由つきで)算定しなければいけない、全て見積もりの作業となるからです。百戦錬磨の会計専門家マネージャー陣が何人も投入されて、頭を突き合わせて考えるような案件で、私は絶対やりたくありません(笑)。もちろん会計上の数字は会社に作成責任があるのですが、こんな案件は会社の経理だけでは到底無理で、監査法人のマネージャー陣をずらずらと並べて協議してると思います。韓国は監査法人のローテーションルールがあるようで、今期からサミル(PwC系)に変わったのですが、同情を禁じえないです(私見です)

まとめ

ということで、今回のIthaca買収の解説はこんな感じで。これ面白いのかなー?と疑問ですが(笑)、読んで頂きありがとうございました。

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