手を使った行為,調整そして空間でのプランニング:幼い子どもによるモノとモノとの関連付け(Manual action, fitting, and spatial planning: relating objects by young children)
【要旨】
本研究ではモーショントラッキングテクノロジーを使ってモノとモノとを互いに上手く方向づける能力の発達について新しい方法を示す.モノを調整する課題において,16-33ヶ月の幼児グループ(N=30)の手に反射マーカーをつけて3次元での空間的調節を記録した.手に持ったモノの移動は移行(translation)と回転(rotation)とにわけた.結果から,年少の子どもは主として2ステップのアプローチを使っており,まずターゲットまでモノを移行させて,その後で回転させることによりモノをターゲットに適合させていた.対照的に,年長の子どもはより高度な空間でのプランニングを示しており,モノをターゲットまで運ぶ過程すべてにおいて移行と回転という構成要素を統合させていた.さらに,年長の子どもに関しては相対的に短い距離での移行(つまり最短距離で)かつモノの不要な回転を避けることで移行と回転とを協調させることが可能となっていた.より大きく考えるならば,この結果は幼児期において手を使った問題解決がいかにしてより効率的で計画的なものになっていくのかについて展望を示すものとなっている.
【本文一部抜粋】
問題解決や道具使用の課題の多くではモノの向きを他の刺激,例えばモノや隙間の向きに関連づける必要がある.
本研究ではモノの調節,より一般化して言えばモノを互いに関連づけて並べるという問題の発達について調べた.
通常,手に持ったモノを穴の向きを予測して合わせておくことは2歳のおわりになるまで難しい.
Visuomotor coordination in reaching and grasping tasks
様々な方向を向いているモノを掴むとき,手をターゲットのある場所まで持っていき(translation),そしてモノの形や向きに手を合わせる必要がある(rotation).
空間的な点から言えば,1歳のおわりまでに赤ちゃんはこのようなリーチングという文脈のなかで上手く移行(translation)と回転(rotation)を組み合わせられるようになる.
Visuomotor coordination in fitting tasks
1歳になる前の赤ちゃんでもモノや隙間に伸ばす際に手を事前に合わせることが出来ているが,手に持ったモノを隙間に合わせて調節するには更に1年以上かかる.
この非同期性(asynchrony)の理由はよくわかっていない.
The current study
手に持ったモノを予測的に調節できるようになる原因を神経学的メカニズムに求める前に,その調節に見られる発達学的前進の根底にある行動学的な変化を理解することが重要ではないだろうか.
モノを移すというフェーズ全体-つまりモノを取り上げて隙間にそれを運ぶ-を通じて調節課題を調べることにより,子どもがいかにして移行および回転を組み合わせようとしているのか,そしてこの能力が月齢によってどう変化するのかについて理解することが出来るだろう.
Method
Participants
サンプルは16-33ヶ月の子ども30人(男児15人,女児15人)である(平均24.4±4.5ヶ月).
Apparatus and design
子どもはテーブルの前に座り,テーブル上にある木の棒を持ち,それをテーブル真ん中にある水平または垂直に置かれた隙間に入れるよう求めた.
子どもたちはそれぞれ調節課題,棒の向き(水平/垂直),穴の向き(水平/垂直),棒が最初に置いてある場所(子どもの左/右)の全ての組み合わせ8種類をランダムな順番で行った.
VHは手のベクトル.VSは穴のベクトル.VRは棒のベクトル.VR'は棒を水平面に投影したときのベクトル.(a)手と棒が最初に接触したときの角度.(b)棒と穴とが作る3D角度.(c)棒と水平面とが作る垂直角度.(d)穴と棒が水平面上に投影されたものとが作る水平角度.
Results
Reaching
月齢に関わらず子どもは棒にリーチするときは適切に手を方向づけていた.この知見は先行研究と一致しており,0歳後半の赤ちゃんはすでにリーチングにおいて手の向きとモノの向きとを一致させることが出来る.
Transport phase: translation- efficiency ratio
年長の子どもは年少の子どもと比べて棒をより短いルートで隙間に運んでおり,月齢とともに子どもの移行がより効率的になることが示唆される.
Transport phase: rotation
移行期における角度は3つの方法で測定した:3D角度,垂直角度,水平角度である.
Rotation: 3D angle
上図に見られるように,子どもたちは同じ程度に移行期の早い段階から棒を方向づけしているが,棒が穴に接触するときは年長の子どものみが穴と棒の向きをぴったりと揃えていることが出来ていた.さらに,年長の子どもは移行期の最初から予測的な調節を始めており,これは年長の子どもがその最初からプランニングを行っていたことを示唆している.
Point of contact: 3D angle
棒が最初に穴に触れたとき,年長の子どもの方がより穴と棒の向きをぴったりと揃えることが出来ていた(上図).重要なことは棒の向きとマッチ/ミスマッチ条件との間には何の関連もないことであり,子どもには棒や穴の向きが最初に合っていようが合っていまいが関係ないのである.
Visual attention
目を向ける行為に関する知見からは年少の子どもでさえもその課題の重要な特徴に視覚的注意を払っていることを示している.視覚的注意に関する問題は年少の子どもが事前にモノと穴との向きを揃えることの難しさを説明できるものではない.
Grip
この結果からは年少の子どもが棒と穴との向きを揃える難しさは巧緻的なコントロールの問題にあるわけではないことが示唆される.
Learning across trials
8回のトライアルを通じて経験を通じてその課題が上達(またはどんどん下手になっていく)するわけではなかった.
Individual strategies
上図から,年少の子どもは多くの異なる方向づけを行う一方で,年長の子どもはそうではないことが言えるかもしれない.注目すべきはこれは棒と穴との向きが最初から揃っている課題においても言えることである.
月齢とともに子どもは移行期において棒の向きを一貫したやり方で回転させるようになっていく.さらに,月齢をコントロールすると,移行期において一貫したやり方を示す子ども(年少の子どもも一部含まれる)は棒の向きと穴の向きを接触する時点で上手く揃えることが出来ていた.
Discussion
本研究の主要知見はモノの向きを揃える課題における移行・回転がそれぞれ月齢を経るにつれてどのように変化するのか,そして協調的になっていくのかを記したことである.
まず,20ヶ月未満の子どもは調節を2ステップの方法で行う.この月齢の子どもは移行と回転による置換(displacement)を協調させることはない.20ヶ月未満の子どもは最終的に棒を穴に合わせることが出来るものの,年長の子どもより約3倍もの時間がかかっている.
続いて,20ヶ月から24ヶ月の子どもはより計画的で効率的となっていく:20-24ヶ月の子どもはより穴に向かって直線的な経路をとるようになる.そうではあるのだが,この月齢の子どもはまだ棒と穴との向きを移行期の比較的遅い段階で合わせている.
本研究の年長になる月齢の子どもになると移行期の非常に早い段階でプランニングを行うようになり,それは棒と穴との向きが最初に合っていても合っていなくても同じである.
マッチ条件の結果を考えるとき,年少の子どもは移行と回転を協調させることが難しく,プランニングが欠如していることは注目すべきである.年少の子どもはマッチ条件においても最初の向きを維持しておくことが出来ず,これはプランニングの欠如がその遂行を阻害している証拠である.
視覚的注意を持続するという要求に加え,課題に関連したモノの関係を知覚し,ゴールを心に留め続けることが年少の子どもの処理能力を超えてしまうのかもしれない.上述のように,この考えを支持するものとして年少の子どもはシンプルな2ステップのアプローチを採用しており,まず移行してから次に回転させていた.
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