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日用品の用途に合った使用を学ぶ(Learning the designed actions of everyday objects) その2

Rachwani, Jaya, et al. "Learning the designed actions of everyday objects." Journal of Experimental Psychology: General (2019).

その2

【要旨】

幼い子どもはどのようにして日常物品-ドアノブやジッパーなど-の使い方を,それが用途に合った使い方で使えるようになるのだろうか?モノのデザインされた行為というのは大人にとって自明のようなものであるが,幼い子どもがその「隠されたアフォーダンス」を学ぶ方法についてはほとんど知られていない.私たちは115人の11ヶ月から37ヶ月の子どもに2種類の容器を開けるよう促した:ひねって開ける蓋がついた円形の瓶(実験1)とひっぱって開ける蓋がついた長方形のタッパー容器(実験2)である.容器のサイズを変えることで身体-環境の適合が用途に合った使用(designed action)の表出(display)および実行とに及ぼす影響を調査した.結果から,用途に合っていない使用(nondesigned action)から用途に合ったひねりや引き抜きによる行為遂行が成功するまでの発達的連続性が明らかとなった.用途に合っていない使用は月齢とともに減少し,用途に合った遂行が増えていった.用途に合った使用が実行されることと,その実行が成功することとの間には時間的ギャップが見られた.つまり,子どもが何をすれば良いのかを知っていたとしても,容器を開けることは依然として難しかったということである.なぜか?ひねる課題に関して言えば,非常に大きな蓋は操作することが難しく,幼い子どもは右向きまたは両方向にひねってしまい,左方向に回し続けることが出来なかったからである.大きなひっぱって開ける容器では土台を固定するという新しい戦略,例えば容器を机上や自身の胸に対して安定させるといった戦略が必要となるからである.これらの知見から,子ども日常つかっている物品固有に隠されたアフォーダンスを学習・実行するのを促すような身体-環境要因への洞察を得ることが出来る.

【本文一部抜粋】

Experiment 2: Pull-Off Lids

実験2ではもっと大きな容器になった場合に子どもが新しい両手戦略を使って用途に合った動作を実行するのかを確かめた.

大きな容器では本体が安定していなければ単に蓋を引っ張るだけでは上手くいかない.そのため,引っ張って蓋を開ける大きな容器には「隠された」一面,つまり子どもは蓋を引っ張りつつも本体を固定しなければいけないという一面がある.

Method

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11-37ヶ月の52人の子ども(男児30名,女児22名)でテストした.

手続きは実験1と同様だが,ここでは子どもは3種類-すべて手の幅よりも大きい-の引っ張って蓋を外す透明なタッパー型の容器7個を使った.

実験1と同じく,子どもの手のひらの大きさに対する容器のサイズを標準化した:手のひらの大きさに対して1-4cm大きいもの,5-9cm大きいもの,9cmより大きいものである.大きい順に上2種類の容器は明らかに子どもの手よりも大きく,子どもは片手では本体を掴むことが出来ない-つまり本体を固定しつつ蓋を引っ張る必要があるということを意味している.

Results and Discussion

Actions on pull-offs: Changes across age and trial-to-trial variability

実験1と同様に,知見は用途に合っていない動作から用途に合った引っ張る動作,そしてそれが上手く遂行されるまでの発達的連続性を支持するものであった.

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用途に合っていない行為の割合は低かったものの,セッションにおけるどこかのポイントでは75%の子どもが容器を回し,52%が振り回し,29%が口に咥え,27%がテーブルに打ちつけ,27%が手で叩いていた(上図C).さらに,用途に合った引っ張る動作はそれが成功するよりも前から見られた(上図D).

しかしながら,上図3Dの黒線と赤線が交わらないことからわかるように,蓋を引っ張るからといって蓋が開くとは限らなかった.

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各トライアルでのデータからも発達的連続性が支持される.1列内にある記号の一貫性の欠如からは子どもがトライアルごとに上達しているわけではないことが示されている.

Successful implementation of the designed pulling action: Stabilizing the base

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ではなぜ用途に合った使用をすることと,それが成功することとの間には時間的ギャップがあるのだろうか?私たちが仮説を立てたように,月齢とともに子どもは上図Dの線画で見られるように容器を胸に押し当てたり,テーブルに押し付けたり,もしくは自分の前腕を使って容器を安定させるように徐々になっていた.

子どもは小さな容器に比べて大きな容器を3.19倍から4.15倍も本体を安定させていた.

General Discussion: The Hidden Affordance of Everyday Artifacts

Normative Developmental Progression

11ヶ月から37ヶ月の間で子どもはしっかりとした3ステップの発達学的連続性を示した.

しかし,用途に合っていない動作は30ヶ月を過ぎてもなくなることはなかった.年長の子どもは用途に合った動作を学び始めているものの,依然としてその遂行に必要な特異性を学ぶ必要があったのかもしれない.

各トライアルでの変動性(variability)が示唆することは,最初のうち子どもは日用品の用途に合った使い方の遂行・完遂を一度に一つずつ,ケースバイケースで学んでいるのかもしれないということである.

月齢に関連した変化からは,何をするか知っていることとそれを完遂できることとが混ざり合う学習期間がまず先行し,そこから実際の使用にはわずかな違いがありながらも用途に合った使用方法が共通する日用品を一貫して上手く扱えるようになっていくことが示されている.

Motor Components of Implementation: Body-Environment Fit

発達学の多くの文献では問題解決における認知面が道具使用の学習にとって不可欠なものと捉えられている.研究者からはそれほど認識されていないものの,日用品の用途に合った行為の発見・実行には運動という要素もまた極めて重要である.

アフォーダンスが隠されていようかどうかに関わらず,行為は身体-環境が上手く適合した場合にのみ可能となる.仮説を立てた通り,身体-環境の適合-ここでは容器のサイズに対する手の大きさ-が用途に合った捻り・引っ張りを遂行できる子どもの能力に影響を与えていた.

Motor Components in Discovering the Hidden Affordance

用途に合った行為を発見することと遂行することとは絡み合っている.あるケースでは,子どもは用途に合った行為を実行するための能力があるものの,そのやり方を子どもは知らなかった.

他のケースでは,子どもは何をすればよいのかわかってはいるがその用途に合った行為を実行する能力,タッパー容器の蓋を外すだけの指の筋力が足りなかった.

おそらく,用途に合った行為においては偶発的な知覚-運動の探索が手がかりになるのであろう.子どもが自発的に面やモノに対して行為を行うときに知覚情報が生成され,この偶発的な知覚フィードバックは子どもが次に何をするか決めるのを誘導する.

日用品の隠れたアフォーダンスを発見・遂行するという発達的軌跡をどのようなメカニズムが駆動しているのかは不明である.先行経験(馴染みのボトルを開ける),運動スキル(十分な力で硬い蓋を開ける),知覚フィードバック(ドアハンドルという突出物)がそれぞれ役割を果たしているのだろう.

Practical Implications for Mastering the Activities of Daily Living

日用品の隠れたアフォーダンスにより定型発達の子どもも家庭や学校におけるセルフケアで困難にさらされるが,とりわけ運動や知覚,認知,社会面で障害のある子どもには困難がともなう.

発達学的変化の軌跡について重要となることを細部にわたり知らないのであれば,両親へのトレーニングプログラムや教師,セラピストは堅牢な実証的エビデンスよりもその芸術的手腕や常識に頼ることになってしまう.


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