道具操作における運動の原点(Motor origins of tool use)
【要旨】
この研究ではバンギング運動の発達学的軌跡と,道具操作の発達におけるその意味を調査した.20人の赤ちゃん(6-15ヶ月)が反射マーカーをつけた状態でハンドルのついた積木をバンギングした;運動は240Hzで記録した.0歳時後半を通じてバンギング運動は発達学的変化を経て道具としてのハンマリング(hammering)やパウンディング(pounding)に申し分なく相応しいものとなることが結果から示された.幼い赤ちゃんのバンギングは効率的でなく多様性があった:その手は高速で長く円様の軌跡を描いていた.1歳になるまでに赤ちゃんは一貫した効率的な手の軌跡を描くようになり,その大きさも速さも小さなものとなった.これにより目的に対して正確な,そして信頼性の高い力の供給が可能となっていた.この知見から,道具操作の発達は赤ちゃんが現有している手の行為から段階的に発達することが示唆される.
【本文一部抜粋】
ヒトにおける道具操作(tool use)の発達理論では,手段-目標的な思考(means-end thinking)や自己洞察の達成(achievement of insight)という新形態の出現がしばしば強調されてきた.
比較心理学や観念失行から得られたエビデンスから,認知は単独であるものではなく,そしておそらく最も重要なものでもなく,それは道具使用のシンプルな形の基礎となる要因であることが示唆される.知覚-行為理論(perception-action theory)では,同じことが乳児・幼児の道具操作という行為の個体発生にも当てはまるのではないかと主張している.
幼い乳児でも,後に現れてくるスキルとある面では極めて似ている運動パターンの繰り返しをすでに示している.
シンプルな形の運動課題をマスターしはじめた幼い乳児は非常に多様な運動を示すものだが,練習によりそれは適応的で効率的な運動になる.効率性という意味では同様の進歩が道具操作でも見られる.
定型的な運動発達において,長期にわたる練習の結果としてバンギングが先行基準(preceding criteria)を満たしてよりパウンディングやハンマリングに相応しいものとなるのではないか.
結果
探索的なバンギングにおいて,手の軌道の空間的・時間的な効率性の変化を調べるために3つの変数に焦点をあてた:(a)手の移動距離,(b)手の軌道の直線性,(c)手の速さ.
Traversed Distance
幼い乳児は年長の乳児よりもはるかに長い距離を使い打ちつけていた.
Straightness of Hand Trajectory
年長の乳児は幼い乳児と比べて手を直線的に上下させてモノをテーブルに打ちつけていた.
Peak Velocity of the Hand
乳児は月齢が進むにしたがってピーク速度が明らかに遅くなっていた.
Within Bout Consistency
幼い乳児の手の軌道は非常に変化が多く,一方で年長の乳児は高い一貫性を示していた.
考察
幼い乳児はモノを非効率的に打ちつけていた.
対照的に,年長の乳児は熟練した道具操作に求められる多くの運動特性を示していた.
およそ1歳になるまでに,乳児は一貫した長さで,一貫した速さで,手の軌道を直線的に上下させており,それは打ちつける行為が続いても変わることが少なかった.
乳児はバンギングという行為を繰り返し行うなかでより効率的で,より一貫したものになっていた.
【私見】
repetition without repetition.問題はこの繰り返す行為のなかで,知覚と行為の循環のなかで,赤ちゃんがいったい何を学んでいるのかということです.それがわかればセラピーはもっと洗練されたものになるはずです.
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