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裸で過ごす:オムツは赤ちゃんの歩行に影響をあたえる(Go naked: Diapers affect infant walking)

Cole, Whitney G., Jesse M. Lingeman, and Karen E. Adolph. "Go naked: Diapers affect infant walking." Developmental science 15.6 (2012): 783-790.

【要旨】

異文化間研究および実験的研究により子育ての習慣が乳児の運動スキルに影響を与えることがわかっている.オムツを履くこと,一見するととくに問題がないように思えるこの子育て習慣が乳児の歩行に影響を与えるのかを問うた.オムツ着用により下肢間に距離が生じ,乳児のバランス不良とワイドスタンスを悪化させている可能性があった.歩行は古典的な布オムツにより不利な影響を受けており,現在主流の紙オムツ-研究に参加した乳児の多くが日常的に使用していた-でさえも裸での歩行と比較するとコストを伴うものであった.乳児はオムツを着用することで未熟な歩行パターンを示しミスステップや転倒が増えていた.ここから,乳児のオムツは歩行学習においてバイオメカニカルな動揺を持続的に生みだす要素であることがわかった.さらに,オムツ習慣の変遷が乳児の歩行における歴史的・異文化間的な差異に影響を与えているのかもしれない.

【本文一部抜粋】

育児習慣は運動発達に影響を及ぼす.養育者が乳児をどう扱うのか,何を着せるのか,どのようにトイレトレーニングするのか,文化的・歴史的な差異は乳児がある運動スキルを身につけるのかどうか,スキルが獲得される年齢に影響を及しうる.

実験によるエビデンスは乳児が運動することの促通的効果を支持している.毎日数分間の運動が運動発達の軌跡を変更する.

着衣における様々な歴史的・文化的差異も運動発達に影響を及ぼしている.19世紀ではアメリカの乳児40%がハイハイをしなかったが,ひょっとするとこれは乳児が着ていた長く垂れたガウンが手・膝による運動を妨げていたからかもしれない.最近では,厚手の冬着を着たり重い毛布の下で寝ることがハイハイなどの腹臥位スキルを遅らせ,2-4ヶ月の乳児は窮屈なレギンスを履いていると抗重力でのステッピング頻度が低くなることが示されている.

排泄習慣もまた運動発達にドラマチックな影響を与える.ここで私たちは簡単な排泄の解決策-オムツを履く-も乳児の運動発達に影響を与えるのかどうかを確かめる.

本研究では裸,現代の薄い使い捨てのオムツ着用,古風な分厚い布オムツ着用での乳児の歩行を比較した.

Method

Participants

図1

30人の13ヶ月児と30人の19ヶ月児をテストした.

母親へのアンケートから,乳児は平均して週に41分間の裸歩行をしていた;73%は何らかの裸歩行を経験しており,23%は裸歩行の経験がなかった.

Apparatus and procedure

図2

乳児は各タイプのオムツを着用して長さ5.73m×幅0.92mの感圧性マットの上を繰り返し歩いた.オムツ条件の順序は均衡するよう調整してある.

Results

Gait distruptions

オムツを履いて歩くのは特に歩行未熟な13ヶ月児のに機能的なコストがかかっていた.

図3

表は各条件下で少なくとも1回の転倒あるいはミスステップを踏んだ乳児の数(上),およびトライアルが中断した割合(下)を示している.

Gait parameters

機能面での結果に加え,オムツは乳児の歩行の熟練度(proficiency)を低下させてもいた.

図4

図はオムツが算出された歩行パラメータに与えた影響を示している.オムツを着用するとどちらのグループも幅広で短いステップで,ダイナミックベース角度(dynamic base angle)が小さくなり-いずれも未熟な歩行の特徴である-,両年齢グループとも同じような影響を受けていた.オムツ着用によるコストは布オムツが最も顕著であったが,使い捨てオムツ-乳児の92%が日常的に着用している-でも歩幅の狭小とダイナミックベース角度の減少が見られた.

Discussion

この結果によりオムツが確実に乳児の歩行を機能面(転倒・ミスステップの増加)と熟練度(未熟な歩行パターンを引きおこす)の双方に影響を与えることが示された.

Real-time effects

裸で歩いているときに比べ,オムツを履いているあいだ乳児のステップは幅広で短くなり,ダイナミックベース角度が小さくなる-これらはすべて未熟な歩行のサインである.

なぜオムツが歩行の障害となりうるのだろうか?私たちの実験で行った操作の新奇性という説明は除外できるだろう.布オムツは多くの乳児にとって新奇なものであるが,それは裸で歩くことにも当てはまる.

オムツが歩行の交互性とステップの位置を妨げていることを考えるならば,関節角度や下肢の軌道といった運動学,そして床反力・筋活動といった力学も同じようにマイナスの影響を与えているのではないか.

これらを合わせて考えると,乳児は自分たちが着用しているオムツによって継続的にバイオメカニカルな動揺を受けるという文脈のなかで歩行を学習していることが結果から示唆される.しかしながら,オムツを脱ぐとすぐさま乳児の歩行が向上するということは更に考えさせられる:乳児は状況さえ許せばより成熟した歩行パターンを示すことができる,彼らは日常的にオムツを履いて歩くときはそのようなパターンを産みだすことも経験することもしていないという事実があるにも関わらず.

Developmental effects

オムツが乳児の歩行を即時的に減衰させることがわかったが,本研究ではこのリアルタイムでの変化がより永続的な発達と密接な関係にあるのかは特定できない.

ひょっとすると,オムツによる付加的な困難に晒されることなく裸で歩くことを学習した乳児は姿勢および協調の面でより早く利得が得られ,スキルを獲得する年齢やその向上が速くなるのかもしれない.

同様に,オムツによる動揺に対して代償する必要にせまられ,発達過程の運動スキルで能動的にチャレンジすることで実際にはスキル獲得が加速することがあるかもしれない.

Concluding thoughts

本研究では研究者に忠告を示した.なぜなら乳児が何を着ていたのか記載していない研究者が多いからである.

実際はもちろんそんなに単純ではない.文脈から切り離された運動の描写(description)というものはなく,文脈から切り離された発達の描写というものもない.移動は常に環境のなかで起こっている;子どもはある文化のなかで発達している.

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