図6

道具使用の発達:End-State Comfortのプランニング(The development of tool use: Planning for end-state comfort.) 1/2

Comalli, David M., et al. "The development of tool use: Planning for end-state comfort." Developmental psychology 52.11 (2016): 1878.

【要旨】
その場面で直接利用できる情報に基づいた計画を立てて道具のハンドル部分を握ることもある.しかしながら,きっと手の最終的な肢位に基づいた計画を立てたに違いない握りもある.「最終的な状態が快適になる(End-state comfort)」握りは最初こそぎこちなく,快適とは言えないものだが後にその行為を快適に・効率的に実行するものである.認知の観点から言えば,最終的に快適な状態をプランニングすることは行為全体の文脈が一貫して表象されており,その場では直接利用できる情報に基づいてのものではない.幼い子どもが最終的な状態が快適になるために計画立てることが難しかったり,大人のようなパフォーマンスを示すのはおよそ12歳にならないと難しいことは多くの研修者が示している.私たちは2つの実験でハンマリング課題を用い,複数のステップで子どもたちに目標指向的な行為に取り組んでもらった.私たちは試行を繰り返すなかで子どもの手の選好,握り方の選択,道具を使った遂行を新しい方法で測定して最終状態の快適さ(end-state comfort)の計画立てを評価した.ハンマリング課題は実行の効率性を評価するのに相応しいものであった.この新しい課題でも私たちは4歳,8歳,12歳の子どもでこれまでの発達を再現した.最も重要なことは,4歳児は1回のセッションの間でも複数の競合する戦略が存在する移行期にあることを私たちのデータが示したことである.幼児は試行中でも試行間でも握りを変化させており,これはエラーへの気づきと,より効率的に実行するためにスピードを犠牲にする態度を示唆している.最終的な状態が快適になる握りは最初,各々が競合する多くの握り方の中の1つであるが,徐々に他の握り方はなくなっていく.子どものコストへの感度と効率性への意欲がこの変化を生み出すのだろう.

【本文一部抜粋】
私たちは「最終状態の快適さ(end-state comfort)」の文脈において,ハンマーを使ってペグを打ち込む課題を子どもに行ってもらい運動のプランニングの発達を調査した.

Planning for End-State Comfort

画像1

大人はより定型的・効率的な握りで最終状態を迎えるために,最初は非定型的でぎこちない開始状態の握りを使うことがしばしばある.大人とは対照的に,幼い子どもは最終状態の快適さにはまったく気づいていないように見える.もし子どもが試行のなかで様々なタイプの握りを示すのであれば,それは異なるタイプの握りが競合している移行期を示しているのかもしれない.幼児はごく少数が限られた課題でのみ最終状態の快適さ(end-state comfort)を示し,最終状態を考慮したプランニングが多くの課題で一貫して見られるのは10-12歳である.
「最終状態の快適さ(end-state comfort)」課題における不十分なパフォーマンスは目標へとつながる行為の順番についての表象が一貫していないのかもしれず,もしくは目標となる行為そのものの表象に失敗しているのかもしれない.前者であれば子どもは開始時の握りが一貫していないはずである.道具を使った目標となる行為の表象が定まっていないのであれば,行為を実行中の子どもの握りが一貫しないはずである.

Current Studies
ハンマリングの課題を用いた2つの研究において,なぜ幼い子どもがend-state comfort課題に関して不十分なのかを調査した.ハンマリング課題はとても楽しいもので,子どもから20回の試行を得るのが簡単であり,それにより個人内の変動性(variability)の膨大なデータを得ることができた.快適さを評価するために,子どもの開始時の握りだけでなく,ハンマリングを実行中の握りも評価した.効率性を評価するために,子どもの各試行におけるハンマリングを分析した(ペグを打ち込むまでの回数,ペグを打ちつけるのに失敗した割合,握りを変えるための時間).よりし生態学的に妥当な設定で子どもがどのように振舞うかを評価するために,実験1では子どもはセッションを通じてどちらの手を使っても良いこととした-ちょうど彼らが日常生活のなかで遊ぶときのように.

Experiment 1: Hammering Using Either Hand
Results and Discussion

画像2

12歳の子どもは難しい課題において91%がend-state comfortの握りを示した.対照的に,8歳児は76%,4歳児は38%が難しい課題でend-state comfortの握りを示した(A).難しい課題では4歳児は年長児や大人と比べてより非利き手の使用や,ぎこちない尺側握り,握りを変える傾向にあった(図B-D).

(※難しい課題とはハンマーの柄が子どもに向かって左側になるよう提示される課題です.この場合,子どもが利き手(右手)で上から自然に掴むと尺側握りになってしまい(C),その後のハンマリング課題の遂行がぎこちなくなってしまいます.解決策として,右手を回外させて撓側握りをする(A:これがend-state comfort),左手でハンマーを握る(B),いったん尺側握りをしてから撓側握りに持ち替える(D)があります.三浦)

画像3

図のA-Cから,幼い子どもは難しい課題における最初の握りでかなり個人間・個人内での変動性が見られる.4歳児のわずか15%でしかすべての難しい課題でend-state comfortの握りを示していない.40%はend-state comfortをまったく示さず,45%はときどきend-state comfortの握りを示し,85%は最初の握りのタイプが2種類以上あった.個人内の変動性は8歳児,12歳児では減っていた.

画像4

図の左パネルにあるように,握りを変えるときは変えないときに比べて最初の握りから打ちつけるまでに約1秒長く要している.子どもは1秒間のロスというコストを最初にぎこちない尺側握りを用いるコストと比較して大きいものと見ていないのかもしれない.

画像5

子どもは独占的に象徴的な方法を採用しているわけではなく,試行のなかでときどき多様なハンマリングの方法を用いている(図の上パネル).それでもなお,象徴的な方法は依然としてやはり子どもの選択肢の戦略に含まれている.4歳児は打ちつけるときに象徴的な方法と非象徴的な方法との間でその回数に差異はない(図の中パネル).同様に,4歳児は象徴的なハンマリング方法でもそうでない方法でも同じようにペグを打ちつけるのにミスしている.大人の目から見て快適でない・非効率的なハンマーの握り方は子どもからするとそれで十分なものなのかもしれない.
(※象徴的な方法とは大人がハンマリングで行う典型的なパターンです)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?