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合わせるまえに見ている:子どもと大人に見られるリアルタイムでのプランニングの流れ(Look before you fit: The real-time planning cascade in children and adults)

Ossmy, Ori, et al. "Look before you fit: The real-time planning cascade in children and adults." Journal of Experimental Child Psychology 189 (2020): 104696.

【要旨】

目標指向的な行為には問題解決-いかにして知覚と行為を協調させて課題を遂行するか-が必要とされる.先行研究では子どもがどの年齢で問題解決に成功するかに焦点が当てられていたが,私たちはどのようにして子どもがリアルタイムで運動問題を解決しているかに焦点を当てている.いかにして知覚と行為がその時々で展開していくのか理解するためにモノの調整をモデルとして用いた.就学前児(N=25)と成人(N=24)が「型はめボックス」を使い適切な穴にモノを挿し込む課題を用いた.モノの調整という問題に対するリアルタイムでの分析方法として新しい組み合わせを採用した-見るという行為を記録する頭部にとりつけるアイトラッキング,リーチと挿し込みの間で見られるモノの方向づけを記録するマイクロコーディング,そして目と手の行為におけるタイミングの関係を調べるためのリアルタイム分析の手法(再帰定量化解析 recurrent quantification anasysis とグレンジャー因果 Granger causality).子どもは大人と同様に上手く問題を解決していた.しかしながら,大人は調整スピードおよびいつモノの向きを調整するかという観点で子どもよりも優れていた.大人はモノを運ぶときにその方向を調整していたが,子どもはモノがボックスに到達してからモノの向きを調整していた.子どもの調整が遅くなるのはターゲットとなる積木の形を見ること,それに適合する穴を見ることが遅れることの結果であった.今回の知見から,プランニングはひとつながりの知覚・行為がリアルタイムで起こっており,見るということはその後の行為を事前にプランニングする土台となっていることがわかった.問題解決における発達学的な進歩はひとつながりであるプランニングに見られる誘因,およびその構成要素ごとのタイミングがリアルタイムで変化することにより起こると示唆される.

【本文一部抜粋】

Introduction

Object fitting and the planning cascade

モノの調整は研究者にとってリアルタイムでの一連のプランニングを研究するのに理想的な方法である.なぜならそこには観察可能な目と手の行為の順序が含まれているからである.

12ヶ月になる前では乳児はどんな形のモノでもそれを適合する穴に合わせることが難しいが,その課題に対する興味は示している.20ヶ月から24ヶ月になると幼児は対称的な形のモノを適合する穴に合わせることが出来るようになる;30ヶ月までにはでこぼことした非対称なモノを合わせられるようになる.40ヶ月までに子どもはその課題を最も複雑な形で解決できるようになり,複数あるでこぼことした非対称なモノおよび/または穴を選択的に合わせられるようになる.

しかしながら,Lockmanら(2018)が指摘しているように,帰結指向的(outcome-oriented)なアプローチではいつ子どもが特定の調整課題を出来るようになるかしかわからない.それではどのようにして子どもがリアルタイムでその問題を解決するのかというプロセス-つまり,一連のプランニングのなかでいかにして視覚と手の行為がその時々で展開して効率的な調整が可能となるのかはわからない.

The current study

全体的な目標は,モノの調整をモデルとして一連のリアルタイムでの視覚と手の行為のプランニングにおける発達学的な変化の特徴を見つけることである.

Method

Participants

3.1~4.9歳の子ども25人(平均4.0歳;女児14名)と18.8~26.5歳の大人(平均21.8歳;女性15名)が参加した.

Procedure and shape sorter

子どもがアイトラッカーを装着するため,子どもにはそれが「サイエンスロボット」ー子どもが喜びそうな名前-であると伝えた.参加者には3つの異なる形と色の積木を型はめボックスに入れるよう求めた.

Fitting phases

調整(fitting)はリーチ(reach),移送(transport),挿入(insert)のフェーズから成る.

Result

Attempts and duration of fitting phases

予想通り,どの子どもも大人も全てのモノを適合する穴に入れることが出来た.しかしながら,これも予想通りであったが,子どもは大人と比べて効率的ではなかった.

Real-time visual actions

図Aは大人と子どもの典型例で菱形を入れようとしているときの注視に関するタイムラインである.色の異なりが示すように,大人は菱形ブロック(濃い青棒)と菱形の穴(薄い青棒)を多くの場合で見ている.さらに,薄い青棒が示すように,大人は適切な穴をリーチ期や移送期の早い段階から注視している.対照的に,子どもは菱形ブロックと菱形の穴をリーチ期や移送期に見ていることは少ない(様々な色の棒が騒々しく集まっている).

図Cはリーチ期および移送期の見る活動を示している.3つ全てのモノに関して,子どもと比較して大人はリーチ期・移送期の早い段階から関連するモノおよび/または穴をより多く見ていることがわかる.

グレー領域が示しているように,大人はリーチ期の早期にそのモノや穴を見て,次に関心領域(ROIs)から目線を離し,そして移送期に先立ってモノや穴に目をやり,移行期の間は継続してそのモノや穴を見続けている.対照的に,子どもが丸や菱形の調整を行うときはリーチ期にモノや穴を見ることはほとんどなく(双方とも20%未満),移行期になって適度に目をやるようになる.これらを踏まえ,リアルタイムでの見るパターンから子どもは前もって関連する視覚情報を生成するのではなく,触覚情報に頼ってい調整を上手く誘導していることが示唆される.

Real-time adjustments of object orientation

子どもがモノの向き(orientation)を調整する多くは実施の最後に行われる;平均して51%の調整が挿入期に行われ,大人のそれは平均17%である(図D).

Looking and adjusting: Recurrent quantification analysis

図Cでわかるように,見ること(looking)と調整すること(adjusting)の間にある差異は子どもと大人で異なる配分を示す.大人では調整はより見た後に起こりやすく,一方で子どもはモノや穴を見る前に調整を開始している.

つまり,見ることが調整に先行する子どもではモノの向きを合わせるのが速いということである.対照的に,見ることが調整に続いて起こる子どもは合わせるのに時間がかかっている.

Accuracy of adjustments and looking

子どもと大人を含めた場合,調整における平均的な正確さは見る-調整の差異に一致しており(図D),リーチ期および移送期での見る割合とも一致していた(図E).しかしながら,これらの一致は子どものみを分析対象とした場合には当てはまらない.なぜなら子どもの見る-調整の差異は非常にネガティブで,子どもはリーチ期および移送期に見ることが少ないからである.

Discussion

ほんのわずかの間に知覚と認知,そして運動システムは協調して最適解を産出している.このような素早いプロセスにおいて行為は時間的・順序的に正確でなければならず,視覚行為が課題に関連する情報をまず集め,次に適切な手の行為を実行しなければならない.

大人はモノを型ためボックスに移送しながらモノの向きを調整している一方で,子どもはモノの向きを調整するのはボックスに到達してからであった.それはまるで子どもが解決策をガイドする触覚情報を「待っている」ようである.なぜか?

今回の知見は子どものプランニングに見られる難しさはリアルタイムでの一連のプランニングにおけるタイミングの遅れから来るものである.一連のプランニングは視覚行為(モノと穴とを見る)は必ず手の行為(モノの向きを穴に合わせる)に先行していなければいけないのである.

Planning in motor problem solving

運動の問題解決にとって必要なことは,行為の順序についてのプランニングをいつ始めるのかに-モノの調整に関して言えば,リーチやモノの向きを調整して合わせるのに対していつ見るのかが重要である.

18ヶ月より前では子どもはモノの向きを2つの分離したステップで調整する:まずモノを穴あに移送する直進的な動き,そして次にモノの向きを適切に合わせる回旋的な動きである.30ヶ月を過ぎると,子どもは直進的な動きと回旋的な動きを組み合わせて1つのステップとして移送期を行うようになる.

Planning to plan: The role of visual actions

実行のスタート地点で十分な視覚情報を得られないという子ども失敗は「プランをプランニングする」という誤りの表れかもしれない.子どもの試行錯誤の戦略から大人の事前にプランを組む戦略へのシフトは,続いて起こるプランニングに必要な知覚情報を獲得するためのプランをプランニングする点が向上した結果かもしれない.

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