上肢運動の発達:胎児から出生後まで(The Development of Upper Limb Movements: From Fetal to Post-Natal Life)
【要旨】
背景:この縦断的研究の目的は上肢運動の運動学的組織化が胎児期から出生後にかけてどのようにして変化するかを調べることである.オフラインの運動学的テクニックを使うことにより胎生期から出生早期における手-口と手-目の運動と,後年における手-口とモノに向かうリーチング運動を同じ赤ちゃんで比較した.
方法論/主な知見:胎生14週,18週,22週で記録した運動を生後1ヶ月,2ヶ月,3ヶ月,4ヶ月,8ヶ月,そして12ヶ月での自然状況下におけるよく似た運動と比較した.結果から生後1ヶ月の赤ちゃんと胎生22週の胎児に関しては運動タイプ(つまり目,口)に依存してよく似た運動学的な組織化があることが示された.2ヶ月と3ヶ月においてはそのようなターゲットに依存して差異のある運動のプランニングは失われ統計学的な差が見られなくなった.手-目の運動はもはや生後4か月では見られなくなったため,我々は手-口と手-モノの運動を比較した.この分析により手-口と手-モノへのリーチングは運動の減速期の長さに違いがあることが明らかとなった.
結論/意義:このデータを子宮内から子宮外への移行がどのように運動のプランニングを修飾しているのかという観点から議論する.これらの結果は,いかにしてタイプの異なる上肢運動,自身の顔に向けた運動と外部にあるモノへの運動とが発達するのかについて新しいエビデンスを提供する.
【本文一部抜粋】
独立した手-目の協調という早期の行為と,リーチングと把持が統合された後期のパフォーマンスとの間にある移行期は系統だって十分に特定もしくは分析されていない.この縦断的研究では胎児期および出生早期における手-口の運動,および後の手-口とモノへのリーチングとの間にある差異を調べることによってこの移行期を調査している.
参加者
8人の健康な赤ちゃん(男児2名,女児8名)を胎生14週から生後1年までのあいだ調査した.
運動の種類
胎児期では3名の専門家によって2種類の運動が識別・評価され,続いて分析された:(ⅰ)手から口へ,手の動きが手指の口への接触で終わるものと(ⅱ)手から目へ(図A),手の動きが手指の目への接触で終わるもの(図B).
生後3ヶ月においても同様に3名の専門家によって腕の運動が識別・評価,続いて分析された:(ⅰ)手から口へ,手の動きが手指の口への接触で終わるものと(ⅱ)手から目へ(図C),手の動きが手指の目への接触で終わるもの(図D).
4ヶ月以降は手-目の運動がもはや見られなくなったため,手-口(図A)と手-モノへ(図B)の運動とを比較した.
結果
手の軌道のキネマティクス
図は手の口およびモノへの運動の軌跡を示している.上のパネルはある赤ちゃんの様々な月齢(1,2,3,4,8,12ヶ月)における口への運動を示している.口への運動は月齢が進むにつれて長くなり,より複雑になり,そしてより良くコントロールされたものになっていくのがわかる.下のパネルはある赤ちゃんの4,8,12ヶ月でのモノへのリーチを示している.月齢によって軌跡の最後の部分でどのように調節しているのかがわかり,12ヶ月児ではその調節が有意に減っている.
胎児 vs 新生児の上肢の運動:目と口への運動を比較
運動時間(Movement Time: MT)は胎生22週で胎生14週,胎生18週と比較して長くなっていた.生後1ヶ月でのMTは胎生22週,生後2ヶ月,生後3ヶ月のものよりも短くなっていた.胎生期および出生後に関係なく目への運動が口への運動よりも長かった.
胎生22週では減速期の割合は口へと向かう上肢運動よりも目へと向かう上肢運動の方が大きかった.この結果は生後1ヶ月まで持続するが,一方で生後2ヶ月および3ヶ月では目へと向かう上肢運動は口へと向かう上肢運動よりも減速機が小さくなっていた.つまり,口へと向かう運動よりも目へと向かう運動で早い段階から減速するのは胎生22週と生後1ヶ月のみである.
自己に向かう vs 他へ向かう上肢運動
MTは4ヶ月よりも8ヶ月で有意に短くなっていたが,8ヶ月と12ヶ月では差はなかった.(年齢期×運動の種類)で相互作用効果(interaction effect)が見られた.4ヶ月ではモノへと向かう上肢運動は口へと向かう上肢運動よりも長くなっていた.対照的に,12ヶ月のMTはモノへと向かう上肢運動の方が口へと向かう上肢運動よりも短くなっていた.この差異は減速期においても明らかであった.このパラメータにおいて月齢の主効果が見つかった.減速時間は12ヶ月で8ヶ月,4ヶ月よりも長くなっていた.さらに,運動の種類による主効果が明らかとなった.減速時間は口へと向かう運動の方がモノへと向かう運動よりも長くなっていた.
考察
本研究の知見から,胎児運動の時間的特性が非協調的もしくはパターンを伴わないものではまったくないことが確認できる.
この結果から,生後の豊かでチャレンジングな環境への適応が運動機能のリセットを決定し,それには最終目標に依存した明確で容易にわかる運動パターンの再構築に対する新規の運動学習が必要とされる.
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