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姿勢が乳児の多様式なモノの探索を制約している(Postural position constrains multimodal object exploration in infants)

【要旨】

近年の研究で乳児の認知・社会的発達において多様式なモノの探索が役割を果たしていることが明らかとなっている.しかしながら,乳児がモノを探索するときの姿勢に関するリアルタイムの影響はまったく無視されてきた.この研究では,5-7ヶ月の乳児(N=29)がサポートあり座位,背臥位,腹臥位におかれた状態でモノを扱い,そしてその自発的な探索行為を観察した.背臥位や腹臥位よりも座位において乳児はより手,口,そして視覚による探索を行った.さらに,座位において乳児は手の探索と口遊びや目でよく見ることを組み合わせていた.モノの探索による学習の機会は探索行為の量・質を制約するリアルタイムな姿勢の文脈に組み込まれている.

【本文補足】

モノを探索するという行為は学習にとって新しい機会となる.学習はモノの探索の量と質に依存している.モノの指いじり(fingering)とは表面を指でなぞることによりモノの形状や輪郭に関する情報を得ることである.モノを回すこと(rotating)はその側面や背面を明らかにすることで三次元構造に関する情報を提供している.両手間でのモノの移行(transfering)はモノの重さや形状に関する情報を提供する.

座位姿勢のコントロール向上により乳児はモノに手を伸ばし,掴み,そして続いてそれらを探索するようになる.姿勢の発達は認知・社会的な学習を促し,そしてさらに洗練された探索をも誘導している.

この研究では4.70ヶ月から7.43ヶ月(平均6.02ヶ月)の乳児29名(男児14,女児15)が参加した.14人の乳児は一人では座れず,4人は手支持で座ることが出来,11人は手支持なしでも座ることが出来た.

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座位姿勢において,乳児は手・目・そして口によるモノの探索を背臥位や腹臥位よりも多く・頻回に行っていた.さらに言えば,座位のあいだ乳児は多様式なモノの探索ー手の探索と口や目の探索を協調させる傾向にあった.

腹臥位:手および口の探索は座位姿勢に比べて背臥位や腹臥位で少なかった.腹臥位のスキルを練習することは筋肉の成長を促進したり,乳児の柔らかい頭蓋骨を扁平化させるのに有用なのかもしれない.

背臥位:背中を下にして腕の運動を方向づけるために乳児は持続的に抗重力のトルクを発生させ続ける必要があり,多大な運動コントロールが要求される.背臥位における手の探索はよりまとまりがなく,無関係な「放散overflow」運動を含んでいる.

座位:起立座位により乳児は探索できるアドバンテージを持つ.全ての探索活動は乳児が座位のときに高かった.さらに言えば,目・手・そして口を組み合わせた協調的で多様式な探索は座位姿勢において最も頻回に起きた.サポートありの座位でも腹臥位や背臥位よりも探索を促し,月齢や座位経験を超えたものが見られた.

姿勢の発達は学習機会を広げる:この研究では,様々な姿勢でモノを使って遊んでいるのはわずか12分間,さらに乳児が座位で口・目を伴った手の行為はおよそ10-15回しかなかった.それにも関わらず,何週間・何ヶ月とかけて乳児はモノを探索し,学習するのであり,そのようなわずかな差異が莫大なものとなる.5ヶ月という月齢までは,乳児は一日6時間を活動的で,覚醒した状態で過ごす.乳児は腹臥位や背臥位と比べて座位で一日あたり400回以上の手を使った行為と22分間以上の目を使った調査を行っている.

【私見】

なぜ座ることが出来ない子どもでも座ってセラピーすることが大切なのか,その根拠となる重要な文献と考えます.一人座りであっても,椅子を使った座位であっても,座ることにより子どもは手を,目を,口を使って世界の仕組みを学習するのです.そして,その学習が「楽しい」と思えるような足場を組むのがセラピストの責務だと思っています.

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