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定型発達の子どもの予測的姿勢制御(Anticipatory postural adjustments in children with typical motor development)

Girolami, Gay L., Takako Shiratori, and Alexander S. Aruin. "Anticipatory postural adjustments in children with typical motor development." Experimental brain research 205.2 (2010): 153-165.

【要旨】

予測的姿勢制御(APAs)は垂直姿勢の維持を必要とする多くの活動を遂行するのに重要な役割を果たしている.しかしながら,子どもが自身の引き起こす姿勢動揺の間にどのようにAPAsを利用しているのかはほとんど知られていない.定型発達の7-16歳の子どもが床反力測定盤の上で立位をとりながら様々な方向に上肢を動かした.APAsは両側下肢・体幹6カ所での表面筋電図の活動と重心(COP)の偏移によって測定した.両側の肩屈曲に伴い下肢・体幹の背側筋群における予測的な発火と腹側筋群の抑制が後方へのCOP偏移と同時に見られた.一方,両側性の肩伸展ではCOP偏移は前方に起こり,APAsは逆転して腹側筋群の発火と背側筋群の抑制を示した.左右交互の上肢の運動においては,COP偏移は最小となりAPAsは屈曲に動かした側の背側筋群と伸展に動かした側の腹側筋群で発生した.しかし,このパターンは下肢筋群では逆転し,APAsは屈曲した上肢側では腹側筋群に発生し,伸展した上肢側では伸筋群に発生した.この研究の結果は定型的な運動発達の子どもではAPAsを発生することが可能であり,それは矢状面または水平面とで起こる動揺では異なり,課題特異的な順序で筋活動が発生することを示唆している.この研究の結果から定型発達の子どもは少なくとも7歳までに健常な成人で報告されているものと同様な重心の変化を伴う予測的な筋活動・抑制パターンを発生させる能力を持っていることを示している.

【本文補足】

研究のNは10(女の子6人,男の子4人)です.APAsはリーチ開始の100ms前からのものを積分して量化しています.

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筋電図は左右の起立筋(ES),腹直筋(RA),大腿二頭筋(BF),大腿直筋(RF),ヒラメ筋(SOL),前脛骨筋(TA)です.課題は両上肢の屈曲(図a),両上肢の伸展(図b),相反的な肩屈曲・伸展(図c),片側上肢の屈曲(図d)です.

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上の図は両上肢の屈曲・伸展にともなう筋電図(上)とAPAsの積分値(下)です.筋電図(上図)を見ると,両上肢屈曲ではリーチ開始のおよそ100ms前から両側のESとBFに予測的な活動が見られます.一方,両上肢伸展では逆転して予測的な活動がRAとRFに見られ,ESとBFには予測的な抑制が見られます.

APAsの積分値を見てみると,体幹(ESおよびRA)および大腿(BF)で運動方向により左右の積分値がきれいに逆転しているのがわかります.つまり,方向特異的にAPAsが発生しているということです.

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次の図は片側上肢の屈曲活動にともなうAPAsの筋電図(上)と積分値(下)です.RUSFが右上肢屈曲,LUSFが左上肢屈曲です.

筋電図を見ると,左右屈曲ともにESの活動が見られますが,興味深いのは屈曲側とは反対側のESの活動がより大きくなっていることです.しかし,APAs発生の順番を大腿部で見ると,同側のBFは対側のBFよりも先行して働いています.また,下腿筋群に目を向けると右上肢屈曲では対側(左)SOLの活動と同側(右)SOLの抑制が見られます.TAはいずれの場合もほとんど先行的に働いていません.SOL(ヒラメ筋)に関しては,上肢屈曲に伴い同側のSOL(ヒラメ筋)が抑制され,対側のSOLが活性化されています.

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次の図は上肢の運動前後において各筋が活動を開始したタイミングを示すものです.両上肢屈曲(BLSF)の場合,まずRBF(右大腿二頭筋)が活動を開始し,RES(右起立筋),LES(左起立筋),LBF(左大腿二頭筋)がそれに続きます.他の筋群は屈曲運動の後に遠位筋から近位筋へ(SOL,TA,RF,RAの順番)と活動を開始していきます.肩伸展では両側のRA(腹直筋)が最初に活動し,運動開始直前に左右のRF(大腿直筋)が活動を開始します.残りの筋群は肩屈曲とは逆に近位から遠位へと活動を開始します(ES,BF,SOL,TAの順番).

片側の肩屈曲では体幹(ES)と大腿(BF)が最初に活動しています.例えば右肩屈曲では右ES(起立筋)と右BF(大腿二頭筋)が運動開始前にまず活動し,それに左ES(起立筋)が続きます.運動直前に左BF(大腿二頭筋)が,そして運動開始後に遠位から近位の順番で残りの筋群が活動を開始します(TA,SOL,RF,RA).

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最後の図は各運動におけるCOP偏移を示しています.RRSFを除き,どの運動でもCOP偏移は上肢の運動とは逆方向に起こっています.

【私見】

姿勢コントロールの発達,とくにAPAsに関してはおよそ7歳前後で成人と同様のパターンを示すことがわかりました.APAsと言っても様々な視点が見ることが出来,先行した活動が生じる筋群および活動が抑制される筋群,そのタイミング,筋動員の順序,COP偏移など多岐に渡って調べられており,姿勢コントロールを見るヒントがたくさんある文献です.

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