見出し画像

モノとの関りと歩行:赤ちゃんの発達における古いスキルと新しいスキルの統合(Object interaction and walking: Integration of old and new skills in infant development)

Adolph, K. (2017) “Excerpt volume: Object interaction and walking: Integration of old and new skills in infant development.” Databrary. doi: 10.17910/B7.459.

【要旨】

リーチや把持,モノの探索といった手を使ったスキルは歩行といった移動スキルよりも数ヶ月早く現れる.いったいどこまで赤ちゃんは古いスキル(モノへの手を使った行為)を新しいスキル(歩行)の発達に取り込んでいるのだろうか?私たちは実験室で赤ちゃんが自由遊びをする64回のセッションをビデオに収めた.赤ちゃんの月齢(12.7-19.5ヶ月),歩行経験(0.5-10.3ヶ月),歩行の熟練度(スピード,ステップ長,等々)は大きな幅がある.手を使ってモノを抱えたり探索したりといった早期に獲得したスキルは歩行といった後に獲得するスキルにすぐさま取り入れられていることがわかった.モノを抱えることで赤ちゃんの歩行パターンは確実にコストを負うことになるが,手でモノを抱えたり探索したりといった行為は比較的よく見られるもので発達に伴って変化するものではなかった.さらに言えば,モノを抱えるという行為は立っているときにも歩いているときにも共通して見られるものであった.とは言え,赤ちゃんはモノと手当たりしだいに関わっているわけではなかった:モノの探索は歩行時よりも立位時によく見られ,赤ちゃんは比較的軽いモノを選んで運んだり探索したりしていた.この知見から,早期に現れたスキルのなかには後に現れるスキルの動機づけや質を高めることに役立っているものがあることが示唆される.


【本文一部抜粋】

Participants

最終的に12.69ヶ月から19.53ヶ月の赤ちゃん51人(男児25,女児26)の観察をデータに残した.

Playroom, objects, instrumented mat, and procedure

画像1

赤ちゃんはソファー,高台,プラットフォーム,小さな滑り台,絨毯の敷かれた階段,木の階段のある大きなプレイルーム(5.97 × 9.42 m)で20分間保護者と自由に遊んでもらった.

どのセッションでも6つのオモチャが部屋の中にセットされている:取り外し可能なドアと屋根のついたおもちゃの車,音の鳴るボール,布製のイヌ,ジャラジャラ音の鳴るリンゴ,歌のボタンがついたおもちゃのサックス,そして「ワニの形をした」木琴である.

さらに,子どもたちの多くは持ち運びのできるモノを発見した(例,本,ママの携帯電話,赤ちゃんの靴下,これらはどのセッションにもあるものではない).

RESULTS

Frequency of object interactions while walking

上図Bにあるように,赤ちゃんはどの姿勢でも高いレベルでオモチャに興味を持ったーいちばん人気のなかったモノ(車の屋根)でも84%のセッションで遊ばれ,いちばん人気のあったモノ(木琴)では98%のセッションで遊ばれていた.

頻繁に歩いて,モノで遊ぶのを楽しんでいるとするなら,赤ちゃんは多くの場合にモノを持ち運んでいるということだろうか?ひと言で言うならば,その通りだ.モノを持つという古いスキルと,歩くという新しいスキルを組み合わせる潜在的なコストがあるにも関わらず,赤ちゃんは歩きながらモノと関わっていることが非常に多い-平均して歩くときの33.28%でモノを持ち運んでいる.歩き終わるときも依然として赤ちゃんはモノを手に持ったままで,モノを落としてしまったり,床に置いたり,保護者にそれを渡すということは少ない.めったにモノを落としてしまうことが少ないということは(モノを持ち運ぶうちの3%),歩行という新しいスキルはモノの操作という古いスキルを障害するものではないということを示唆している.

Object interactions in walking versus standing

画像2

すでにマスターしたスキルと新しいスキルがすぐに統合されるというアイデアに一致するように,立位での把持が歩行での把持に比べてより多く見られるということはなく,その頻度が発達過程において変わることもない.

赤ちゃんは歩行時に手を使った行為が完全に減ってしまうということはないが,モノと選択的に関わるようになる.モノを持ち運ぶことは歩行でも立位でも共通して見られるが,赤ちゃんは立位でより頻繁に手の込んだ探索スキルを用いる傾向にある.

Selectivity of manual actions by object weight and size

画像3

赤ちゃんは立位時・歩行時ともに重いモノよりも軽いモノ・中ぐらいのモノを持ち運ぶ傾向にある.

モノの重さによって片手で持つかどうかが変わる.

Cost of object interactions to walking

画像4

上図Aには「ちょうネクタイ」のパターンが見られる:およそどのセッションにおいても,赤ちゃんがモノを持ち運ぶときに転ぶ,持ち運んでいないときに転ぶ,どちらの場合にも転ばない,これらの数に違いはない.

対照的に,より感受性の高いコストの測定-自然歩行におけるモノの持ち運びの影響-は歩行の成熟という観点でのコストを示唆していて,新しいスキルと古いスキルの統合にはコストが伴うというアイデアに一致している.赤ちゃんの歩くスピードは手にモノを持っているときの方がゆっくりとなり,ステップ長はモノを持ち運ぶときに短くなる.ステップ幅に関してはモノを持っているときも持っていないときも違いがなかった.

一方で,モノの探索についてが歩行におよぼすコストは持ち運び以上でも以下でもないことがわかった.

Discussion

モノを持ち運ぶことは歩行パターンにそれなりの負担を強いていて,赤ちゃんは重いモノよりも軽いモノを選んで持ち運んでいることがわかった.

発達にともない持ち運ぶ行為が増えるということはなかった.さらに言えば,本研究は歩行時の探索について調べた最初の研究である-探索は歩き始めた赤ちゃんにとってとりわけ強烈なマルチタスクである.探索は持ち運ぶと同時にモノの特性に注意を向けて巧緻的な動作を必要とするが,この活動は歩き始めの赤ちゃんにも見られ,それが発達によって増えるというエビデンスは見つからなかった.

手を使った行為と移動という行為を同時に行うことは赤ちゃんの年齢(12-19ヶ月),歩行経験(2週から10ヶ月),歩行の熟練度を示す3つの測定(例,直進経路でのステップ長平均は13.79-50.10 cm)を通じて一貫していた.

Selectivity of manual actions

歩きはじめの・不安定な歩き方であっても経験豊かな・熟練した歩き方であっても,赤ちゃんは自然とより軽くて小さなモノを選んで持ち運び探索している.

Motivation and cost

歩くときにモノと関わること-持ち運んだり・持ち運びながら探索したり-これには手に何も持たないときに比べてコストを強いられる.しかし,そのようなコストこそ赤ちゃんは喜んで引き受けているようだ.

ニューヨークマラソンを走るランナーはただ単に走ることがそのモチベーションであるのと同じく,例え手にしているモノが奇妙な何かであったとしても,赤ちゃんはただ単にモノを持ち運ぶことを楽しんでいるだけである.歩行パターンを修正しなければならないという現実的なコストは,今まさにモノを持ち運ぶことに熱中している赤ちゃんにとっては取るに足らない認知コストでしかないのかもしれない.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?