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見る・見られる:自由遊びにおける赤ちゃん-養育者の社会的注視(See and be seen: Infant–caregiver social looking during locomotor free play)

Franchak, John M., Kari S. Kretch, and Karen E. Adolph. "See and be seen: Infant–caregiver social looking during locomotor free play." Developmental science 21.4 (2018): e12626.

【要旨】

赤ちゃんと養育者との対面での相互作用は発達学研究の屋台骨である.しかしながら,親子の相互作用に関する研究を実験室で行うときの典型例は,養育者と赤ちゃんとがともに座って安静姿勢で向かい合うという過度に観るという行為を単純化したものとなっている.より制約の少ない状況で互いに自由に動けるとき,赤ちゃんと養育者はお互いを見るために顔と身体を動かす必要がある.私たちは見るという運動のコストが増加するとペアの顔を見たりペアで見つめ合ったりすることが少なくなるのではないかと仮説を立てた.この仮説を検証するため,12ヶ月のハイハイする赤ちゃんと歩く赤ちゃん,および養育者にヘッドカメラを着けておもちゃが溢れるプレイルームで自由に遊んでもらい,その目の動きを記録した.運動コストが増えるとともに顔を見たり見つめ合ったりする機会が減少することが結果からわかった:自身やペアの姿勢に労力をかけてペアの顔を見なければいけない場合には互いの顔を見る機会が減少した.赤ちゃんが腹臥位にいるとき養育者は床まで目線を下げることで,これはひょっとすると顔を見やすくしようとしていたのかもしれないが,赤ちゃんの姿勢を真似していた.赤ちゃんは養育者の顔よりもおもちゃを見ることが多かったが,養育者は同じ程度に赤ちゃんとおもちゃを見ていた.さらに,赤ちゃんは静止姿勢での研究と比べるとおもちゃも養育者の顔も見る機会が少なかった.これは制約の少ない自由遊びでは注意の要求が異なるものであることを示唆している.これらを踏まえると,実生活での社会的注視は変化しつづける運動コストによる影響を受けている.

【本文一部抜粋】

互いの顔を少しずつ動かしながら,母と赤ちゃんは応答的な表情・ささやきにより止まった時間の中で「ダンス」に戯れている.

対面というパラダイムは共同注意の研究でも典型的なもので,そこでは赤ちゃんは養育者と向かい合って座り,それぞれがお互いの,そして近くにあるモノに向けてどれぐらい視覚情報を取り入れているのかを実験者が記録している.

Effects of motor costs on looking behavior

しかし,赤ちゃんと養育者を対面にすることで互いの顔を見るときの運動コストは減ってしまう.見るということは通常なら頭や身体の動きを伴うものであり-動くのは目だけではない.

赤ちゃんがハイハイや歩いて環境を探索するとき,赤ちゃんの顔も養育者の顔も互いの視界に入ったり出たりすることになる.

私たちの主目的は赤ちゃんおよび養育者の社会的注視に関する運動コストの影響を確かめることである.

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立位または歩行での直立,座位,しゃがみ込み,腹臥位での休息またはハイハイといった身体姿勢を顔の注視における運動コストを示すものとして用いた.

養育者の顔を視界に入れるために頭を持ち上げたり,身体の姿勢全体を変えなければいけないという理由から座位や立位よりも腹臥位の方が顔の注視には運動コストがかかる.同様に,養育者にとっても立っているときよりもしゃがみ込んだり座ったりしているときの方が赤ちゃんの顔を見ることが簡単に出来る.

The role of context in social looking

大きく複雑な環境下で自由に動くことが出来るとき,多様なモノの配列や場所,そして活動が赤ちゃんと養育者の視覚的注意を奪い合うこととなる.

Current study

社会的注視(social looking)における運動コストの影響を調査するために,赤ちゃんと養育者の頭にアイカメラを取り付けて大きなプレイルームで自由に遊んでもらった.

METHOD

Participants

12ヶ月(11.8-12.4ヶ月)の赤ちゃん17人とその養育者が参加した.

Head-mounted eye tracking

Wearable eye-tracking equipment

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図にあるように,赤ちゃんと養育者の頭部にアイカメラを取り付けた.

Free play

キャリブレーションの後,養育者にはプレイルームで赤ちゃんと自由に遊んでもらった.養育者と赤ちゃんは部屋のどこでも自由に遊び,どのおもちゃで遊ぶのも自由にしてもらった.

Face looking, body looking, and toy looking

養育者も赤ちゃんもアイカメラの映像を顔の注視,身体の注視,そしておもちゃの注視にスコア化した.

RESULTS

Social looking by infant posture

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予想されたように,顔の注視(face looking)は赤ちゃんの姿勢によって異なっていた.赤ちゃんが腹臥位になっているときは養育者の顔を見ない傾向にあり,養育者も赤ちゃんの顔を見ない傾向にあった(図A).

対照的に,赤ちゃんの姿勢に関連する身体の注視(body looking)は養育者が赤ちゃんを見るときに変化が見られたものの,赤ちゃんが養育者を見るときには変化が見られなかった.図Bより,養育者の身体を見る割合は赤ちゃんの姿勢に関わらず似たようなものだが,養育者は赤ちゃんが直立や座位のときよりも腹臥位のときの方が赤ちゃんの身体をよく見ていた.

Social looking by caregiver posture

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Discussion

本研究ははじめてアイカメラを使い自由遊びのなかで赤ちゃんと養育者との間で見られる社会的注視を測定した.運動コスト仮説を支持する知見を得ることが出来た:赤ちゃん・養育者ともに顔への注視および見つめ合いは姿勢という文脈がコストのかかるもの(腹臥位の赤ちゃんと直立位の養育者)になると減少していた.身体への注視は姿勢による影響を受けないであろうという予測は赤ちゃんについては裏付けられたが,養育者についてはそうではなかった.養育者は赤ちゃんが腹臥位でその顔を見られないときはより頻回に赤ちゃんの身体を見ていた.赤ちゃんの姿勢により共同注意が異なることは予測していなかった;しかしながら,共同注意は赤ちゃんが座っているときにより頻回に起こっていた.予測していたように,共同注意は養育者が床に降りているときにより見られるようになっていた.

Effects of motor costs on social looking

赤ちゃんにとって,腹臥位という姿勢は養育者の顔への視覚アクセスを隠してしまうものである.しかし,これは腹臥位が社会的注視にとって悪いもので,座位や立位が良いものであるということを意味しているのではない.注視における運動コストは観察者の視点に対するターゲットの物理的位置に依存しているからである.

Allocating visual attention

共同注意は赤ちゃんが腹臥位や(ハイハイや歩行のように)移動を含む立位姿勢よりも座位(で静止時)のときに最も頻回(静止したままでの課題と同じぐらい)に起こっていた.

制約のない自由遊びが出来るプレイルームでは,赤ちゃんは周囲環境の探索を優先させており,じっと止まったままの社会的遊びに取り組む時間が少なかったのかもしれない.

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