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抱っこへの乳児の予期的な調節(Anticipatory adjustments to being picked up in infancy)

Reddy, Vasudevi, Gabriela Markova, and Sebastian Wallot. "Anticipatory adjustments to being picked up in infancy." PLoS One 8.6 (2013): e65289.

【要旨】

他者の行為を予測することはしばしば乳児が行為を理解している基準として用いられている.どこか別のところに対して行われる行為を乳児が観察するという設定での行為理解の研究とは対照的に,この研究では大人が乳児に対して共通して行う行為ー抱っこに対して乳児が見せる予期的な姿勢調節を調査した.3つの相:(ⅰ)先行的な雑談の相,(ⅱ)母の腕がアプローチを開始する相,(ⅲ)接触が始まる相で乳児の行動変化を観察し,圧マット上での姿勢のシフトを記録した.1つ目の研究では18人の3ヶ月がアプローチ相と接触相でシステマチックで全体的な姿勢変化を見せ,雑談相ではそれが見られなかった.アプローチ相では腕(広げる・伸ばす)と脚(固める・伸ばす,またはまくり上げる)で特異的な調節が増加し,接触相では鞭打つような(thrashing)/全体的な(general)動きが減少した.姿勢の安定(stability)におけるシフトはアプローチ開始直後に明らかで,接触後はよりゆっくりとしたものになるが,雑談相ではシフトが見られなかった.2つ目の研究では2,3,4ヶ月児をフォローした.アプローチ相における予期的な行為の調節は全ての月齢で見られたが,雑談相とは大きく異なる大きさで見られたのは3および4ヶ月児のみであった.全体的な姿勢シフトも年長児でより相による差異が見られた.さらに,4ヶ月児はアプローチ相において母の手を有意に凝視していた.抱っこされるときの早期の予期的な調節は,別のところに対して行われる行為よりも乳児自身に対して行われる行為でより早く生じ,それゆえ乳児の共同的な行為への能動的参加が生後早期で可能となるのであろう.

【私見】

おそらく最も早期から大人が子どもに対して行う活動の1つが抱っこです.この研究では乳児が抱っこされるときの予測的な姿勢調節について調べています.この文献には2つの研究が含まれていて,1つ目が3ヶ月児の予期的な姿勢調節の中身について,2つ目は2,3,4ヶ月児で姿勢調節の発達過程を縦断的に追っています.母親が対面で乳児をあやして(雑談相),乳児に手を伸ばし(アプローチ相),抱きかかえる(接触相)までの過程を調べています.

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写真は異なる3名の乳児の抱きかかえられるとき(アプローチ相)の写真です.要旨で出てくる特異的な調節とは頭部や四肢の動きを指します.上下肢を見ると写真(上)では上下肢ともに屈曲,写真(中)は上下肢ともに伸展,写真(下)は上肢屈曲・下肢伸展と抱っこされるときにも色々とパターンがあるのがわかります.鞭打つような/全体的な動き(thrashing/general movement)とは四肢を含む身体全体の動きです.

抱っこに対する予期的な調節とは上下肢のポジションを構えて,身体全体としての動きを少なくすることで母親は抱っこをしやすく,乳児は頭が後方に落ちてしまわないようにする反応です.この研究で生後3ヶ月の乳児は母の行為(抱っこ)に対して予期的な調節が十分に可能であることがわかりました.アプローチ相における予期的な調節は2ヶ月児でも見られましたが,母の手が近づいてくるのに対してやや時間的に早い段階から動き出してしまうため雑談相とアプローチ相との差異が有意でなくなってしまいました.

生後早期に見られた予期的な調節,とくに乳児が抱っこという母親との共同作業へ能動的に参加していることは重要な知見です.このような共同作業への能動的参加が二項関係・三項関係の発達へとつながっていくのではないでしょうか?抱っこは母親-乳児の「共同」作業であることを養育者に理解してもらうことが大切です.決して物を抱える作業ではありません.

また,脳性麻痺を伴う子どものセラピー,とくに重度の障害を持つ子どもでは抱っこは生活に必須かつ年長になっても続く活動の1つです.日々繰り返される活動の中で姿勢コントロールの発達を少しでも促せるよう,抱っこの仕方(ハンドリング)だけでなく,子どもにこれから何が起こるのか多重感覚を通じて予測させることも大切と思いました.

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