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ひと歩き:乳児の探索の組織化(Bouts of steps: The organization of infant exploration)

Cole, Whitney G., Scott R. Robinson, and Karen E. Adolph. "Bouts of steps: The organization of infant exploration." Developmental psychobiology 58.3 (2016): 341-354.

【要旨】

大人は主として新しい場所へ行くために歩くが,乳児はなぜ歩くのだろうか?乳児は大人のように遠く離れた目的地へ行くために歩くのだろうか?私たちは実験室のプレイルームで30人の13ヶ月児と30人の19ヶ月児が自然に歩くところを観察した.私たちは−乳児が歩き始めたときと歩き終えたときに−なぜ歩き始めたのか・歩き終えたのかを調べるために歩行の構造を特徴づけた.移動という活動は歩行の瞬発(brief spurts)によって大きく構成されていた.13ヶ月児の歩行の半数と19ヶ月児の歩行の41%は1-4歩から成っていて−乳児が遠く離れた目的地へ行くには少なすぎるものであった.多くの歩行はフロアの真ん中で終わっていて,それとわかる目的地では終わっていなかった.ひと歩きごとのステップ数を生存率分析にかけると,歩行継続の確立は歩行の長さとは独立したものであった;乳児は50歩あるいた後とまったく同じように5歩あるいた後でも歩行をやめており,目的地へ向かって部屋を横断するのに十分な歩行距離というものに対する傾向(bias)がまったくなかった.しかしながら,13ヶ月児は1-3歩あるいた後で歩行をやめる確率が高くなり,その短い距離を代償するかのように頻回に歩き始めるということはなかった.乳児の自然な歩行は遠くにある目的地へと意図的に向かっているものではなく;むしろそれは,探索機能として仕える当てずっぽうのプロセスであると私たちは提言する.一歩行の構造と他の歩行評価との関係からは移動という探索が幼い乳児では歩行スキルに制約を受けており,年長になるとそうではないことを示唆している.

【本文抜粋】

移動による探索はもっと目標指向的なものではないのかもしれない.乳児はエネルギーを消費するために,もしくはまったくの動く楽しみのために動くのかもしれない;彼らは疲れたから,興味を失ったから,または転んだから歩くのを止めるのかもしれない.

私たちは自然歩行における一歩き(bout)の構造と,一歩きに含まれるステップ数に焦点を当てた.

高くなった場所(斜面,階段,遊び場)とおもちゃがある実験室で乳児が30分自然に歩く様子を観察した.乳児は部屋のなかを自由に動き回ることが出来て,養育者は安全に注意を払いながら乳児といつも通り関わるよう指示を受けている.

procedure and apparatus

高低差(滑り台,階段,プラットフォーム)とおもちゃのある実験室で30分間,乳児の自由歩きを観察した.乳児は自由に部屋のなかを動き回ることが出来て,養育者には安全に注意しながらいつも通りに乳児とやりとりするよう指示をした.

RESULT

Walking Bouts

年少乳児の半分と年長乳児の41%が1歩から3歩の歩行を行っていた.転倒が原因で短い歩行となっているのか確認したが,そうではなかった.

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全ての歩行に関しての累積生存率の分布を調査し(図A),全体としての分布は負の指数分布に近くなることがわかった.図A,Bは歩行でもう一歩ステップを踏む可能性が一定であるということを意味していて(つまりX軸の地点に関わりなく線形関係の傾きが変わらないということ),すでに何歩ステップを踏んだかとは独立しているということである.

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乳児が歩くのをやめる原因は何であろうか?図に示されているように,相当なパーセンテージの歩行が明確な目的地もゴールもなく終わっている.

明確なゴールのない歩行(トラベリングとその場での歩行)は明らかに明確なゴールのある歩行(おもちゃ,母親,登る)よりもありふれたものであった.一方で,ゴールのある歩行は乳児のコントロール外の要因で終わった歩行(転倒または抱きかかえられた)よりも多かった.

Discussion

乳児が自然に歩いているあいだ,歩行の約50%はたったの数ステップでしかなかった.

一歩行あたりのステップ数の分布に関する生存分析の結果,歩行を続ける可能性は一定であり,それまで何歩ステップを踏んだかとは独立していることがわかった.

歩行が未熟な乳児も,そして歩行経験を積んだ乳児も,多くの歩行は明確な目的地もゴールもないまま終わっていた.

Why Do Infants Initiate Walking?

目標指向的で,視覚によりモチベーションが引き出される探索的移動という伝統的な仮説は正しくなかった.

この研究からは遠くにある目標への移動−魅惑的なおもちゃ,登るべき丘,または母親−は歩く乳児にとって推進力ではなかった.

Bouts Ending in a Goal

乳児が歩行を終えるときの最も一般的な方法はフロアの真ん中で立ち止まることであった.

乳児はときどき部屋の周りを100歩も歩いて,あるおもちゃで遊ぶまでそれを幾度となく通り過ぎることがあった.

歩く乳児は部屋のなかでおもちゃを優先的に探している−おもちゃからおもちゃへあるく−というよりは,歩行者として部屋をより多くカバーしている道中で興味深いおもちゃに出会うから,遠くにあるおもちゃとやりとりしているのかもしれない.

Predominance of 1-to 3-Step Bouts

伝統的なストーリーに反する2つ目の線は,圧倒数がきわめて少ない歩数で,それを補うようにして歩行が開始されるということがない点である.

部屋を横切る−目的地に到達するにせよただ単に歩くにせよ−それは乳児が歩行を開始する理由にはなっていないのである.

Survival Analysis

歩行経験を積んだ乳児において,歩行中に次のステップを踏みだす可能性は一定であった.未熟な歩行の乳児も少なくとも4ステップ目以降は同様の分布となっていた.

もし歩行が圧倒的に目標指向的であるならば,生存分析はストップする可能性が一定とはならない.

注目すべきことに,目標指向的な歩行という考えは成人においても当てはまらない.乳児における自然歩行の構造は−頻回な少ない歩数で立ち止まる可能性が一定−成人における自然歩行のデータとよく似ている.

What Does Guide Locomotor Exploration?

仮に遠くにある目的地へ到達することが乳児の探索移動の推進力となっていないのならば,何が乳児の部屋の中での運動をガイドしているのだろうか?

CONCLUSION

乳児の探索移動は統計学的なプロセスであり,彼らはただ歩くだけであり,そして思いがけなく(serendipitously)魅力的なターゲットに出会うのである.







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