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座位の学習における行動の柔軟性(behavioral flexibility in learning to sit)

Rachwani, Jaya, Kasey C. Soska, and Karen E. Adolph. "Behavioral flexibility in learning to sit." Developmental psychobiology 59.8 (2017): 937-948.

【要旨】

乳児は直立座位を学ぶとき,いったい何を学んでいるのだろうか?私たちは座位の学習における行動の柔軟性ー姿勢を環境の変化に適応させる力ーを前後に傾くスロープ上に座る6~9ヶ月の乳児でテストした.傾き0度から始め;乳児がバランスを崩すまで2度ずつ傾きを増やしていった.乳児は装置の予期せぬ動きにも関わらず,傾くスロープの上,とりわけ前方に傾くスロープ上でバランスを保っていた.傾きの調整が行われる間のスロープが止まっているとき,前方傾斜のスロープでは後方に,後方傾斜のスロープでは前方にといった方法で乳児は傾きの方向と傾斜角度に応じて姿勢を調節していた.姿勢適応は後方傾斜のスロープにおいてほぼ適切なものであった.座位の経験により,より良い姿勢調節と傾斜が増すスロープ上でのバランス維持の能力向上とを予測することが出来たものの,それは前方傾斜のスロープ上においてのみであった.行動の柔軟性は座位学習に必須のものであり,それは座位経験とともに向上することを私たちは提案する.

【内容】

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床の上に座るとき,私たちは体幹-大腿角度を75-80度に保ちます(上図b).ただしこの角度は絶対的なものではなく,支持面の傾斜角度により異なってきます.例えば前方に傾斜している支持面上であれば体幹-大腿角度は約120度(上図c),後方に傾斜している支持面上であれば約70度(上図d)となります.こうすることにより頭部-体幹を直立位に近く保つことが可能となります.

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この研究では,前後に傾斜するスロープ上での乳児の姿勢コントロールをみています(上図).対象は6.4-8.8ヶ月(平均7.44ヶ月)の一人で座れる乳児22名です.体幹の角度は第7頸椎と仙骨とを結んだ線でとっています.大腿の角度はスロープの傾斜角度と同じとみなしています.

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結果です(上図).青が前方傾斜,赤が後方傾斜を示しています.横軸が傾斜角度,縦軸が体幹-大腿角度を示しています.各●の上下に書いてある数字は,その傾斜角度でバランスを保つことが出来た乳児の数を示しています.前方傾斜は18度,後方傾斜は6度まで全ての乳児が座位を保つことが可能でした.なお,前方傾斜では40度,後方傾斜では36度までバランスを保てる乳児がいたようです.すごいですね.

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次に個々のデータを示します.(a)は前方傾斜,(b)は後方傾斜です.#の後の数字は各被験者を示していて,(a)(b)で同じ番号は同じ乳児を表しています.図にある実践は乳児が実際に示した体幹-大腿角度,点線は傾斜変化と体幹-大腿角度の変化がちょうど一致した場合の体幹-大腿角度を示しています.つまり前方に-2度傾斜したときは体幹-大腿角度が2度増えるといった具合です.デルタ値(⊿)は,この値が大きければ大きいほど傾斜変化に適切に体幹-大腿角度を調節しており,小さければ傾斜変化とはそれほど関係なく体幹-大腿角度が変化していることを示しています.

まず,全体的にみると⊿値の大きい乳児の方が,つまり傾斜角度の変化にちょうど合わせて体幹-大腿角度を調節できる乳児の方がバランスをとれる範囲が広いと言えそうです.この結果から,行動の柔軟性と機能(バランス維持)は密接に関連していると筆者は述べています.

次に,程度の差はありながらも全ての乳児が行動の柔軟性を示しています.なかには座位経験が2週間に満たない乳児がかなりの範囲まで姿勢を保持している例もあります(#13や#19).この結果から,目下の環境に合わせて姿勢を調節する機能は一人座り獲得後に伸びる機能ではなく,一人座りに必須の機能であるという結論に筆者は至っています.

結論として,一人座りを獲得するときに乳児が学習するものは,目下の状況に合わせて姿勢を調節するという行動の柔軟性であることがわかりました.


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