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複雑な発達学的現象を単純化するコスト:歩行の学習における新しい観点(The cost of simplifying complex developmental phenomena: a new perspective on learning to walk)

Lee, Do Kyeong, et al. "The cost of simplifying complex developmental phenomena: A new perspective on learning to walk." Developmental science (2017).

【要旨】

研究者は複雑な発達学的現象をノイズや複雑性をすべて含めて研究することも出来るし,もしくは現象を必要不可欠な側面のみに削ぎ落とすことで行動を単純化して研究することも出来る.私たちは歩行の発達をモデルに使い,複雑でノイズの多い行動を単純化することのコストを比較した.伝統的に,研究者は乳児の歩行を単純化して連続的な,前方ステップの,直進経路に沿った歩行測定を行ってきた.ここでは,私たちは97人の乳児(10.75-19.99ヶ月)を用いて自由遊びのなかで20分間の自発的歩行(spontaneous walking)と伝統的な直進経路の課題とを比較した.床に敷いた装置で乳児の足跡を記録し,直進経路課題と自由遊び課題における歩行評価を算出した.加えて,自発的歩行の他の重要な側面-一回あたりのステップ数,歩行経路の形,そしてステップの方向をビデオに撮って収めた.自由遊びの乳児の歩行を研究することは直線経路の課題と比べてもコストがかからないばかりか驚くべき利益があった.直線経路の歩行は自発的歩行と高い一致を見せ,双方の測定とも歩行経験とともに向上を示した.これは直線経路の課題を発達指標として用いて妥当性を確認した.しかしながら,自由遊びでは多くの割合で歩行距離が短く標準的な歩行評価が出来ず,歩行の多くはあらゆる方向への曲線を描くステップであった.これらの「標準的でない」歩行の高い出現率は発達経過を通じて一貫していた.自発的歩行,表だって説明したいと願うこの現象に焦点を当てることは,歩行学習において乳児が解決する問題への重要な洞察をもたらすことを私たちは提案する.発達リサーチの他の領域もまた,複雑な現象の複雑性を維持することで利益を得ることが出来るかもしれない.

【本文一部抜粋】

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運動発達に関する研究は生態学的妥当性(ecological validity)と実験コントロールとの間にある緊張を示す例でいっぱいだ.乳児の発達を扱う多くの研究は構造化された課題のなかで行為に制約を加えて観察する方法に頼っている.これにより,私たちは解明したいと目論んでいるノイズの多い,多様な現象を理解することが難しくなっている.

全体としての目標は,自由遊びのなかで固有のノイズや多様性,そして複雑性を含んだ自発的歩行(spontaneous walking)の発達を評価することで何が得られ,何が失われるのかを調査することである.1つ目の目標は両課題および歩行経験について,長いvs短い連続歩行,曲線vs直線の経路,多方向vs前方向のステップが歩行を構成しているのかを描き出すことである.2つ目の目標は両課題における歩行測定を集積して,歩行経験を通じてその軌跡を比較することである.

67人の乳児を1回,30人の乳児を2または3回,トータルで136セッションの観察を行った.

短い歩行距離(short bouts),曲線の経路,多方向へのステップは自由遊びでより多く見られた.歩行経験がふえてもこの高い出現率が減ることはなかった.

歩行距離

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1-3ステップの短い歩行が自由遊びにおいて多く見られた(上図A).自由遊びにおける1歩行におけるステップ数は発達を経てもかわることがなかった(上図B).

歩行経路の形状

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上図Aで見られるように,直線ではなく曲線経路が自由遊びでの歩行を特徴づけている.上図Bで見られるように,自由遊びにおける曲線経路の割合は歩行経験が増えても変わることはなかった.

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上図Aで見られるように,自由遊びでは多くの歩行が前方ステップをまったく含んでいなかった.多方向へのステップは歩行の開始時・終了時により見ることが出来た.多方向へのステップはその長さに関係なく歩行に含まれていた.

考察

標準的でない歩行は歩行経験が増えるとともに減ると仮説立てていたがそうではなかった.短い距離の歩行,曲線経路,そして多方向へのステップは歩行経験の少ない乳児のバランスの不安定さから生み出されるものではないことを示唆している.頻回なスタートとストップ,スピードと方向の変化,そして多方向へのステップを伴う短い歩行距離は全ての発達ステージにおいて核となる特徴である−たとえ乳児が十分な歩行者になったときでさえも.

乳児が何を・どのように学ぶかについての意味

まず,歩行は前方への交互ステップの機械的繰り返しではない.次に,乳児は−その最初の直立歩行を始めたときから−広大な環境を探索・ナビゲートするために豊かで際限なく多様性のある運動のコンビネーションを作りだす方法を学んでいるのである.そして,そのまったく最初のステップから,乳児は非常に複雑で変化に富んだ環境という文脈のなかで強く,上手くバランスがとれた,そして振子メカニズムのコントロールを獲得しているのである.


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