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片方の手でもう一方の手にリーチする:赤ちゃんにおける触覚,固有覚そして行為の協調(Reaching with one arm to the other: Coordinating touch, proprioception, and action during infancy)

Chinn, L. K., et al. "Reaching with one arm to the other: Coordinating touch, proprioception, and action during infancy." Journal of experimental child psychology 183 (2019): 19-32.

【要旨】

身体のある部位へのリーチは食事や整容,不快なところを指し示すような適応的行為にとって重要であるにも関わらず,これまでにほとんど研究されていない.この行為には運動と同様に触覚,固有覚そして時には視覚の協調が含まれることを考えると,ここには多感覚の統合が必要である.ここで私たちは,赤ちゃんがどのようにして身体のある部位をつきとめるのか,そして,どのような運動戦略によってそれを行うのかを調べることによりこのスキルの起源を調査した.腕/手の5つの部位(肘,肘の曲がっているところ,前腕,手掌,手の先端)に置かれた振動するターゲットに手を伸ばすよう赤ちゃん(7-21ヶ月)を仕向けた.手でターゲットを特定するためには赤ちゃんは片方の手でもう片方の手にリーチする必要がある.結果から,赤ちゃんが身体についたターゲットを特定するその戦略において,協調性が月齢とともに増えることが示唆された.多くの赤ちゃんは両手の協調を示し,しばしばターゲットのついた側の腕をリーチする側の腕に向かって動かすことでリーチをアシストしていた.さらには感覚間の協調が月齢とともに増えていた.2つの手の同時的な動きは月齢とともに増え,同じく視覚とリーチとの協調も増えていた.この結果から,触覚の部位特定における多感覚統合の発達と,そのような統合がどのように行為と結びついているかに関する新しい知見が得られた.

【本文一部抜粋】

方法

参加者

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参加者は7-21ヶ月の赤ちゃん74人(平均13.36ヶ月±3.88ヶ月,女児39).

物品

振動するターゲットを顔および腕の異なる部位に取り付けた(ここでは両手の協調に焦点を当てているため,それについてのみ言及する);一度にひとつずつ,低アレルギー性の両面テープを使い.

手続き

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赤ちゃん椅子に赤ちゃんを座らせて実験者と向かい合い行った.赤ちゃんが椅子に座ってグズる場合は養育者の膝の上に座らせた.

ターゲットは肘の曲がったところ,肘,肩,前腕,手掌,手の先端(top of hand)に取り付け,それぞれの赤ちゃんは最大5回で試行した(肩は衣類が邪魔となったため除外した).

取り付ける場所の順番は参加者ごとにランダムとした.身体のどちら側に取り付けるかもランダムにしたが,各参加者はそれぞれの側で約半数の試行を行っている.

振動するターゲットは子どもがそれを取り除くか,およそ40秒間が経過するまで置いておいた.赤ちゃんはその振動するターゲットを取り外すよう言語にて促された.

データ処理

身体の場所(肘,肘の曲がったところ,前腕,手の先端,手掌),ターゲットへの接触が成功したかどうか(yes/no),ターゲットのついた腕が動いてリーチを助けたか(yes/no),リーチのときに両方の手が同時に動いたか(yes/no),ターゲットのついた腕の動き(動かない/回旋rotation/移行translation/回旋と移行),ターゲットのついた腕の動きが正中線からどれぐらい離れているか(動きなし/ターゲットのついた腕がリーチする腕に向かって動いたが正中線まではいかない/ターゲットのついた腕が正中線まで動く,もしくは正中線を超えて動く),そして赤ちゃんがターゲットを見るのかどうかといつ見るのか(リーチの前/リーチする腕を動かした後だがターゲットのある領域に対してリーチが終了する前/リーチの動きと同時に/ターゲットに触れる前に見ることはない)で試行をコード化した.

結果

ターゲットのついた腕の動き

赤ちゃんがターゲットへのリーチに成功した試行のうち多くで(166/220 75.45%),ターゲットのついた腕がリーチする腕に向かって動いていた.月齢やターゲットの場所に関係なくターゲットのついた腕は多くの場合動いていた.

同時的な動き vs 順序的な動き

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二つの腕の同時的な動きは,順序的な動きに比べて月齢とともに有意に増えていた.

動きの質

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対側手にあるターゲットへの接触に成功した試行(220)のうち,移行が最も多く見られたタイプの動きであった.赤ちゃんは115/220試行(52.27%)で移行を行い,220/35(15.91%)で移行と回旋を行い,そして16/220(7.27%)で回旋を行った.

見るとリーチを同時に行う

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76/189(40.21%)の試行で赤ちゃんはターゲットに対して見ることとリーチすることを同時に行った.同時に見る・リーチすることは月齢とともに有意に増加していた.この知見は身体への視覚とリーチが月齢とともにより協調されるようになったことを示唆している.

考察

全体として,主要な結論は身体上のターゲットへのリーチングは月齢とともにより効率的なものになるということだ.これには多くのエビデンスがある.赤ちゃんは月齢を経るにつれてリーチング中により2つの腕(つまりリーチする腕とターゲットのついた腕)を同時に動かす傾向になる.さらに,月齢を経るごとに赤ちゃんはターゲットを見ることとリーチングを開始することを同時に行う傾向にあり,これは知覚と行為との協調が進んだことを示唆している.

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