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3年目のシュトーレン(ver.2)

まだ、11月の末だっていうのに

彼がシュトーレンを買ってきた。

私はクリスマスにシュトーレンを食べたかった。

1年のご褒美として、

クリスマスだけの特別なシュトーレンが

好きなのだ。

それが、毎年のクリスマスの楽しみだって

もう、3回目のクリスマスなのに

毎年言ってるのに、

どうしていつもこの人は肝心なことを忘れてしまうんだろう。

いつだってそう。

半分しか話を聞かない。

洗濯をお願いしても、
セーターはしなくていいってことは聞いてなくて

3歳児が着るのかってくらいまで縮んでしまったり

こってりあまあまのケーキを

ダイエット始めたって言った翌日に

ニコニコしながら買ってくる。

せっかくいろいろしてくれても、

大事なところが抜け落ちてて、

素直に手放しで喜べない。

本当はありがとうって、

私だって言いたい。

それなのに。

また私を怒らせる。

こんなことで、怒ってしまう自分も嫌。

シュトーレンは私にとって特別だったのに。

覚えていて欲しかった。

彼は私のこの、イライラに気づきもしないで

ニコニコしながらシュトーレンを切り始めてる。

今年のクリスマスはもう台無し。

同棲して3年目。

ほんとに相性悪いのかもしれない。

「ねぇ、それ今食べるの?」

いつもより低い声が出てしまった。

「うん。」

と微笑みながら、彼は大切にしてたワインまで開け出した。

嘘でしょ。

そのワイン開ける時は特別って言ってたじゃん。

こないだの私の誕生日だって飲まなかったのに。

私の30歳の誕生日。

ワインと共にプロポーズかもなんて期待してたのを見事に打ち砕かれたあの日すら開けなかったのに

なんでこんななんでもない日に、、、。

思わず私の中の何かが切れてしまいそうになったその瞬間、

「シュトーレンってさ、作ってから1ヶ月、寝かせてからが美味しいって、知ってた?」

「え?」

「あのね、シュトーレンって、クリスマスの1ヶ月前に作って、中に入ってるラム酒漬けのドライフルーツとたっぷりのバターの味や香りが、ゆっくり時間をかけて、生地に沁み広がるんだって。それをね、毎日薄ーく切って変化を楽しむんだって。1ヶ月そうやって、クリスマスを心待ちにしながら楽しむ食べ物なんだって。

なんだか、すごくクリスマスがもっともっと楽しみになると思わない?」

「、、、、、。」

「シュトーレン、好きだったでしょ。いろいろ調べてたら、そう書いてあって。美味しいだけじゃなく、そんな楽しみがあったなんて、って思ったらなんだか感動しちゃってさ。今年は、最高のクリスマスにしたいから。」

シュトーレンとワインを手に

嬉しそうにこっちを見ている。

そんな目で見ないで。

そんなこと、言わないでよ。

今年はって何よ、また、期待するじゃん。

私が誕生日より何よりクリスマスが好きって覚えてたの?

やばい。

涙がこぼれおちそう。


「あれ、どうしたの?固まっちゃって。そんなに嬉しいの?だよねー、ここのシュトーレン、去年食べたかったって悔しがってたもんね。もう、ほんと買うの大変だったよ。楽しみだねーどのくらい美味しくなるのか。早くしないと食べちゃうよー。」

彼は、お気に入りのお皿に乗せたシュトーレンを

お皿ごと食べようとしている。


「だめだめっ!!私が食べるー!!」

この日のシュトーレンは、美味しかった。

だけど、

なんだかまだ少し味が馴染んでいなくて、

それぞれが、それぞれにシュトーレンの中に存在していた。

私たちもシュトーレンのように、

少しずつお互いの味や個性が


時間をかけて


溶け合い混ざり合いながらも

お互いを尊重しあえたら

ひとつの美味しい何かになれるのかもしれない。

Merry Christmas!

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