咲いた月の下で #07
クリスマスイブから続いた結婚騒動も一段落し、〇〇も咲月も受験生の本分に邁進する日々に戻っていた。
1月の共通テスト、◯◯にとっては新婚生活への第一関門ともなっていたが、無事に基準を突破。二次試験に向けて、最後の追い込みにかかっていた。
咲月は共通テストを使わない大学の試験を見事クリア。一足先に新生活準備を始めている。
そして試験前日。今日は咲月の家で、二人で夕食。
◯:あー、もう会う時間も飯の時しか取れないの辛い…
咲:仕方ないけど、それも明日までの辛抱だよ。頑張ろ!
◯:そうだな…受かればな…
直前期、ちょっとナーバスになっているのか、テンション低めな◯◯。
咲:んもー!そんな弱気でどうする!気合いれろ!!
腰に手を当ててふくれっ面。
〇:気合は入ってるんだけどさぁ…
咲:合格のご褒美は、私だぞっ!
胸を張る咲月。
〇:…プッ。なにそれ 笑
思わず吹き出す〇〇。
咲:えー、だってそうじゃん。新生活が待ってるよ!
〇:そうなんだけどさ…エロいの想像しちゃうじゃん。
咲:ちょ、ちょっと…そういうつもりじゃ…
〇:オッケー、元気出た。ご褒美目当てに頑張るよ 笑
咲:違うってばぁ!
ふざけ合いながらもしっかり〇〇のテンションを上げることに成功。
***
そして翌朝。
咲:大丈夫?一緒に行ってあげようか?
〇:いや…違うトラブルに巻き込まれそうだから遠慮しとく。
咲:なんでよ!
軽い夫婦漫才を経て、出発。会場につくと、続々と受験生が集まってきていた。
瑛:おぅ!〇〇!ついに最後の勝負だな!
〇:瑛紗。俺との勝負じゃねぇけど、頑張ろうな。
瑛:なんだ、あんまり緊張してなさそうだな。
〇:上手いこと緊張をほぐしてくれるやつがいてね。本人はそのつもりはないだろうけど。
瑛:むむ…リア充の臭いがする…
〇:まぁいいじゃん。そろそろ行こうぜ。
瑛:あぁ!まてー!
咲月といい、瑛紗といい、周りの人につくづく恵まれているな、と思う〇〇だった。
***
試験を終えて、帰宅。
咲:お疲れ様!
咲月も〇〇の家で待ってくれていた。
〇:ふぃ~…何はともあれ終わったわ…
〇父:どうだ?手応えは。
〇:ベストは尽くした、ってところかな…受かったかどうかは、わからん。
〇母:やりきったなら、あとは待つだけよ。
〇:だな。とりあえず、風呂入ってくるわ。
熱い湯船に浸かり、疲れを癒す。
発表は、1週間後。もしだめだったら、その3日後に後期試験。
結局今回は他の大学を受けていないので、それもだめなら浪人生活…
◯:あー…落ち着かない。
ブクブクと息を吐き、沈んでいく…
***
風呂から上がると、テーブルには豪華な食事が。
咲:今日は第一次お疲れ様会だよ!
◯母:咲月ちゃんが頑張ってくれたのよ。
◯:おぉ、すごい…けど第一次ってなんか縁起悪くないか?笑
咲:ダメだ…ネガティブ思考だ…美味しいもの食べて元気出して!
4人で食卓を囲む。
昔からよくある光景だが、結婚が決まってから一層食卓が明るくなった気がする。
◯母:咲月ちゃん、花嫁修業だって言って、すごくしごかれてるんでしょ?
咲:そーなんです…◯◯の胃袋掴め!ってお母さんめちゃくちゃ厳しくて…
◯:それって付き合う前にやるやつじゃないの?
咲:浮気防止?
◯父:そりゃ大事なことだなぁ。
◯母:ウチの味も仕込まないとねぇ 笑
咲:ひえ〜…大変だ〜
笑いの絶えない食卓。
ピリピリする時期に、こうして安らげる環境があることが本当にありがたい。
***
そして迎えた合格発表日。
最近はオンライン発表も多いが、◯◯の学校は掲示発表もあるとのことで、咲月と二人でやってきた。
咲:へー、ここが◯◯の大学かぁ。広いね。
◯:正確には、番号があったら俺の大学、だけどな。
咲:細かいことはいいの!
瑛:◯◯!
いつものやり取りをしていると、後ろから瑛紗に声をかけられた。
◯:おう、瑛紗も見に来たのか。
瑛:もちろんだ!決着は見届けないとな!
咲:あれ?瑛紗?
瑛:むむっ?さっちゃんじゃないか。こんなところで何してるー!
◯:知り合いなの?
◯◯は塾のことを家ではあまり話してなかった。
咲:私バスケやってたじゃん?試合で何回もやったことあるよ。
◯:瑛紗もバスケやってたのか。意外…
瑛:なんだとー!…って、…お二人は…どういった…ご関係で…?
意味深そうに聞く瑛紗。
◯:あぁ、えーっと、俺の奥さん。もうすぐ結婚すんの。
井上・一ノ瀬コンビ以外には初公表。
改めて紹介されて、ちょっと赤くなる咲月。
瑛:………はぁ!?
場に似合わぬ、素っ頓狂な声が辺りに響いた。
◯:お、おい!声でかいよ!
瑛:ななななななにを言っておるんだオマエはははは
咲:ちょ、ちょっと瑛紗落ち着いて…ここ合格発表見に来るところだから…
周りから若干注目され始めている。
瑛:わ、私というものがいながら結婚だと…
咲:はぁ!?どういうこと!?
キッ!と◯◯を睨みつける咲月。
◯:ま、待て!瑛紗いきなり何を言いだすんだ!
瑛:オマエに勝つことだけを生き甲斐にしてきたのに…結婚なんかされたら大敗北じゃないか…
ワナワナと震えだす。
瑛:おっ、覚えてろ〜!!
アニメに出てくるチョロい悪役のような捨て台詞を残して走り去ってしまった。
◯:…な、なんだアイツ…
咲:◯◯!瑛紗とどういう関係なの!?
◯:関係も何も、塾でやたらと成績で張り合ってくるだけだよ。一方的に。
咲:ホントにぃ〜?
◯:ウソつくかよ。アイツの行動はいつも意味わからん。
咲:ま、まぁ瑛紗はバスケのときも少し不思議な子だったけど…
ジト目で〇〇を見る咲月。
咲:…◯◯は、私の旦那さんなんだからね!
フイッとそっぽを向いて歩き出す。
やれやれ、という感じで早足で追いかけて、そっと耳打ち。
◯:…嫉妬してる咲月もかわいかったぞ。
咲:!!ま、またそうやってー!!!
ポカポカと◯◯の肩を猫パンチ。
◯◯は周りから「合格発表でいちゃついてた人」として認識されるのだった。
***
気を取り直し、いよいよ発表の時間。
掲示板の周りには大勢の人が集まり、その時を固唾を飲んで待つ。
職員が時計を見て、頷きあって、カーテンを外す。
咲:き、きたっ!
◯:46番…46番…頼むっ!
上から順に視線を下げていく。
◯咲:…あ…
◯咲:あった!!!
そこには見事に◯◯の受験番号が記されていた。
◯咲:やったーーーーっっ!!!
抱きついて喜び合う二人。
咲:やっと結婚できるね!!!
嬉しさのあまり、周りの群衆のことなど忘れて叫ぶ咲月。
◯:ば、バカ…こんなところで…
咲:嬉しいよぉぉ!不安だったよぉぉ!
人目をはばからず号泣する咲月。
明るく気丈に振る舞っていた彼女も、内心は自分と同じように不安だったことを知り、◯◯も目頭が熱くなる。
◯:ありがとう咲月…咲月のおかげで合格できたよ。
咲:ううん、◯◯が頑張ったからだよ…約束守ってくれてありがとう…
周りとは少し違う幸せオーラが漂う二人。
〇〇は「合格発表に結婚をかけていた人」とも認識されてしまうのだった…
ちなみに瑛紗も無事合格したそうな。