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あなたのこと

「あなたのこと、片思いするほど好きじゃない」
 と彼女は言った。

「どういうこと?」

「だから、あなたが私を追いかけてくるのなら、私はあなたを追いかける。だけど追いかけてこないあなたを私は追いかけない。そういうことなのよ」
「どういうこと?」

「どちらでもいいっていうことなの。あなたが私にとって、そういう存在だっていうことなの。一方的に追いかけるほど好きじゃあないって言うこと」
「どういうこと?」

「あなたが急にいなくなっても、私はぜんぜん構わないし、気にも止めないっていうこと」
「僕にどうしてほしいの?」
「どうしもしてほしくないの。どうでもいいのよ」
「どうしてそんなことを僕に言うの?」
「あなたに魅力がないからよ。魅力的になりなさいよ。魅力的になって戻ってきなさい。そうしたら認めてあげるわよ。あなたのその思い上がりが気に入らないの」
「僕は君に認めてもらわなくていい」
「それなら勝手にしなさい」

 彼女はそう言い残して、僕の前から姿を消した。
 数年後、彼女は小説家になって、芥川賞の候補にまでなった。

 僕は何者でもない。
 僕は何者でもない。

 僕は、思い上がっていたのだろうか?

おわり。

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