2.「腐肉」

腹(はらわた)の腐り堕ちる音が、体内からした。内臓がとぐろを巻いて、大皿のように広がった骨盤が受け止める。
真夜中に冷蔵庫を開けて、缶ビールを飲み干す。そこで神経が冴えて、痛みが明確になる。
それが胎児のなり損ないであったことに、ようやく気づくのだ。
脚を動かすたびに、血でいっぱいになった、怒張したような子宮から腐肉が立ち昇る。

先ほどの熱狂が失せて、そのまま冷えて固まっている。容易には溶かせないマグマの塊のようなそれが、寝床の中にくるまったまま呼吸をしている。大陸はこのようにできるのだ。爆発するまま、押し出されるまま。
蒼白い、肉の薄い脹脛が投げ出されたままだった。
そこに毛布をかけることもせず、ただ無心に眺めた。応えない大地を思い浮かべる。豊かな萌える緑のそれではなくて、男は海の舐める灰色の岩盤だと思った。
生ごみの中に、ゴムを縛って棄てた。
まるでそれを求めるように腐肉が私の内から這い出て、床を穢した。無機物なそれが、不思議と意図を持ったようにのたうちまわる。
骨のない軟体生物のように堕ちて、湯気が立つ。さながら痛みのない出産のようだった。肌に鳥肌が立って、腐り落ちた細胞の死骸を眺める。やがて彼女らは寄り集まって、人でありながら人ではない、なにかになるのだろうか。
私はビールで膨らんでいく下腹を見下ろした。アルコールはすぐに効いて、血液をたぎらせる。血管が波打って、腐肉が踊る。腹の内が押し上げられて、次が勢いよく産まれそうな予感がした。
私は慌ててトイレに駆け込んで、夜闇の中に座り込む。まだ寝込んでいる男の脛や骨ばった背中を思い浮かべる。その無神経さと、熱っぽくなる女の下腹とを虚しく比べた。

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