UEFA CL グループB PSVとは何者か?

CLの開幕が目前になり、いよいよ本戦に挑むという実感が湧いてきました。今回は、対戦するチームのファンの方々に向けて、PSVがどんなチームか、強みや弱み、要注目選手を紹介します。

PSVとはどんなクラブ?

PSVのPは、世界的電機メーカーのPhilips(日本では電動歯ブラシ、シェーバー、AED、医療専門機器で有名)、SVは、ドイツのハンブルガーSV、SVダルムシュタッドなど同じく、スポーツクラブを表すSVです。先日、PSVとPhilipsは世界で最長の、スポーツチームに対するスポンサーシップとしてギネス記録に認定されました。

アイントホーフェンという街は、Philipsの工場が置かれ、そこで働く人々のために住居を建てるべく拓かれ、発展した街であるという歴史をもつ企業城下町です。クラブが地域コミュニティのために存在するのは欧州の他のクラブと変わりませんが、Philipsの街がアイントホーフェンであるために、クラブの源流はあくまで一企業にあるという点にその特異さがあります。

様々なメディアでPSVアイントホーフェンと表記、呼称されることも多く、どこの何者かをわかりやすくするために公式もサポーターもPSVアイントホーフェンという呼称を用いることがありもはや無意味ですが、正式名称はあくまでもPSVです。

過去にはCLを含めた3冠を達成したことがあり、UEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)も優勝している名門です。

著名なOBには、名選手かつ名監督のフース・ヒディンクに、ルート・フリット、ロナルド・クーマン、フィリップ・コクー、ルート・ファンニステルローイ、アリエン・ロッベン、マルク・ファンボメルら各時代のオランダ代表の主力が数多くレジェンドとして名を連ねます。ManUtdでもプレーしたパク・チソンが欧州で名を上げたのもPSVで、です。

ここ10年は、ドリース・メルテンス、メンフィス・デパイ、ドニエル・マーレン、コーディー・ガクポを代表に、得点力に優れたWGがPSVから多く羽ばたいています。

プレースタイル

チーム体制が夏に一新されたことで、まだ明確なスタイルの確立には至っておらず、個人技頼りで打開を図ることがもっぱらです。

フォーメーションは4-2-1-3が基本、3トップの両翼にボールを託して時間とスペースを探りながら、両翼の選手の1vs1やカットインからのシュート、SBのオーバーラップを活用するサイド攻撃が主体です。

また、新監督ペーター・ボスはボール保持時のプレーに強いこだわりをこれまで指揮したチームに持ち込んでおり、最終ラインをかなり高く設定しています。

とはいえ、ちぐはぐでうまくいかないと、ルーク・デヨングめがけてダメもとでクロスを入れまくる、セットプレーをどうにか得て願いを託す、そんな愛嬌のあるチームです。

長所

両サイドにスピードのあるアタッカーをスタメンだけでなく控えにも揃えており、特にカウンターの際にはそのスピードでゴールに猛スピードで迫ることができます。

また、フィーエマンのキック精度を活かして、CBとルークが合わせるセットプレーも大きな武器としています。

そして、欧州戦でのフィリップス・スタディオン(UEFA主催大会ではPSVスタディオンを名乗る)の情熱的な雰囲気は、チームを強く後押しし、インテンシティが上がるバフ効果を持ちます。

弱点

ボールを持たされたり、ハイラインを上手く機能させるチームとの対戦で両翼のスタートポジションを上げられないと、中盤でボール回しのミスが露骨に増えます。

また、エールディヴィジというリーグのインテンシティがとても低いのも災いしてか、プレス耐性はこの舞台に臨むチームの中では低い部類だと言わざるを得ません。

国内ですら、プレスを受けてのボールロスト、CBとセンターハーフたちの連携ミスによるパスのずれで、ショートカウンターを与え、キーパーに祈るしかないという場面が珍しくないので、今どきのハイプレス主体のチームと対戦する場合にはかなり苦戦するはずです。

その点で、対戦したら蹂躙されかねないRBの2チームを抽選で回避できたのは幸運でした。

PSVのようなアウトサイダーはまず辛抱が大前提の大会がCLです。しかしながら、ドイツの有望株、ベラ=コチャップを駆け込みで借りることができたとはいえ、有している選手たちの実力は過去の選手たちと比較して下回る部分が多く、個人の信じられないミスで失点をいくつも計上している今、それが為せるかは正直とても不安です。

主力選手

Luuk de Jong (#9, CF, オランダ)
バルサに在籍していた時期もあるため、知っている方も多い選手かと思います。ヘッドの強さはもちろん、全盛期はその体格からは想像しずらいですが、誰よりも前線からボールを追い回すファーストディフェンダーとしても優秀でした。迫る年齢には逆らえず、昨夏に復帰して以後はフル出場も減っていますが、踏んできた場数は伊達じゃなく、いまだに頼れる9番、そして我らがキャプテンです。

Joey Veerman (#23, CMF, オランダ代表)
現在のPSVの心臓。長短のキックに優れ、センターサークル付近では足元のテクニックを活かしてパスコースを自ら創出、5レーンの内側のインナーラップも多くこなし、アシストに名前を残すことも多い選手。昨季、念願のオランイェ入りも果たし、成長の真っ只中。調子のムラの激しさ、ミドルシュートの精度の低さは課題であるものの、次にPSVから羽ばたくのは彼だと思わせる才能の持ち主です。5大リーグのファンの方々、フィーエマンを今からぜひ知っておいてください。(カタカナ表記ではよくフェールマンを書かれていることがほとんどですが、蘭語実況を聞くとeはイ寄りの音で発音されています。)

Walter Benitez (#1, GK, アルゼンチン代表)
リーグ・アンでも有数のシュートストッパーとしての評判を得ていた選手。フリーで昨夏にPSVに加入すると、その評判通りのプレーで窮地を救うこと数多。長らくGK問題に悩まされていたPSVがようやく見つけた頼れる最終防波堤。PSVが欧州の舞台で躍進を果たすときは、伝説の男ハンス・ブレウケレン、エウレリョ・ゴメス、イェルン・ズートなど、GKの大活躍で耐え忍び、一刺しを果たすのが常。彼もその系譜に連なる存在となるか、注目です。

Noa Lang (#7, LWG/OMF, オランダ代表)
アヤックス出身で、デリフト、フレンキーデヨングらに連なる世代の出身ながら、歯に衣着せぬ言動も災いしたのか、飛び出した先のクルブ・ブルージュでエースとして花開いた珍しいキャリアの選手。
長く5大リーグ挑戦が有力視されていた彼がまさかのオランダ復帰。左サイドの1対1で発揮されるスピード、タッチも強烈なシュートも兼ね備えた左足でのプレーを見ているだけで心躍る選手です。しかしながら、かなりの気分屋であり、守備はお世辞にも普通の水準に届いているか微妙、トリックプレーにも溺れがち。とはいえパンチ力は抜群な選手なだけに、メガクラブへの門を再び叩くような大活躍に期待。

Hirving Lozano (#27, RWG/LWG, メキシコ代表)
かつてのエースが移籍最終日にアイントホーフェンへ電撃復帰。CLのような舞台ではカウンターを一発お見舞いし、少ないチャンスをどれだけものにできるかがカギになるので、彼のスピード、決定力は心強い。温めなおしたスープはまずいといいますが、ハラペーニョがばっちり効いた、パンチのある姿を待ちわびて、彼のデビューが本当に楽しみです。

PSVを攻略するにはここを攻めろ

今季のPSVが脆弱性を晒している主なシーンは以下になります。

  • ハイライン時のCB(ラマーリョ)の裏の広大なスペースにボールが入るとき

  • GKまでボールを戻した後のビルドアップ

  • 相手の低いラインに対しボールを持たされたとき

まず、現在のPSVの抱える大問題にCBの質にあるのは短所でも語った通りです。プレスをかければ誰かがミスを犯しますし、ハイラインの裏へボールを入れられでもすれば、スピードに大きく優れたDFを有していないために後手に回り、さらに初めから不利な位置取りをしているようなら、頭上を越えたボールを相手選手を背中に負いながらの対応を強いられ、挙句ボールを返しきれないなんてことも珍しくありません。

GKまでボールを戻した時も前述の悪さが顔を出します。ボールを受けようとするCBもMFも受け方や位置が悪く、簡単にプレスの網にかかります。
前へ向き直すターンは拙く、パスが出せる選手も限定的で、GKまでボールを戻させれば、キーパーが大きく蹴りだしてイーブンの状況で自ボールにするチャンスですし、そうでなければ綱渡りのような後方からのビルドアップを強いることができます。足の速いFWでバック4を追いかけ回しているうちに、チャンスの芽が必ず現れます。

もしくは、いっそ開き直ってボールを持たせてしまうのも有効な手です。PSVの攻撃はサイドが主体なうえに、現在スタメンのランもバカヨコもまずは1vs1を挑みたがるので攻撃が一気に単調になります。サイドバックの選手が彼らと1vs1に集中できれば大きなチャンスになることもそう多くなく、むしろ勝てばロングカウンターの糸口、さらにそのボールを狙ってパスをカット、一気にショートカウンターを仕掛けるというのも有効な手になると思います。

まずは、前線からのプレスでPSVの重心を下げ、不得手な後方からのビルドアップを強いる、ファイナルサードへの侵入を許さないような試合の入りに成功すれば、サイドからの打開ばかりを図るようになり単調化するPSVは、相当な苦境に追い込まれるでしょう。

PSVとの試合に訪れる方への注意

大変恥ずかしいことに、現在のPSVとの対戦で、ファンのみなさんが最も懸念すべきはピッチ上ではなく、PSVの一部サポーターとの接触です。

オランダ勢はこの数年フーリガンの蛮行が目立っており、多くのチームに大きな迷惑をかけUEFAからもお仕置きを毎年課されていますが、PSVはここ数年、その筆頭です。

グループリーグで対戦するアーセナルとセビージャには、昨年のELの対戦の際にいくつも問題行動で被害を与え、寛大な許しを得ているような始末で恥ずかしい限りですが、あれから1年程度で劇的に改められるような浅いものではないのが現実です。

もし、対戦チームのファンの方でアイントホーフェンへ遠征に訪れる場合には、決してチームウェアは身に着けず、私服での来場を強く勧めます。

PSVのファンの95%以上は非常にフレンドリーな良き方々ですが、残りのごく少数に信じ難い常識知らずの蛮族が混ざっています。決して油断はしないでください。

アウェイ席は入場から座席までスタジアム外から完全に隔離されていますので、各チームの案内にある入場方法を確認し、集団入場にてPSVのサポーターと一切の接触がないように準備ください。

また、ホームでの試合においても、バーや街中でたむろする黒Tシャツを身に着けたPSVサポーターの遠征団(Lighttown madnessなどのゴール裏サポーター団体員)を見かけた場合には、極力近寄らないようにしてください。

結び

過去の偉大な歴史、輩出した選手がこのクラブを強豪のように現在も印象づけていますが、フラットに見て、現状は32チーム中、20番目~24番目ぐらいに属する実力というのが妥当な評価でしょう。

しかし、アウトサイダーとして何かを起こすことに燃えているのは他クラブと同様で、この大会に出るからには爪痕を残したいという気持ちは当然のこと。

限られたクラブに与えられるこの6試合、まずは素晴らしい試合を存分に楽しみ、願わくば全力を出しきってPSVが次のラウンドへ進むことを期待しながら楽しみたいと思います。

Come on, PSV!!!

<了>


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