4. 6AK5を用いた増幅回路

本節では、6AK5 (WE403A)を用いて増幅回路を設計し、動作をシミュレーションします。

6AK5を用いた増幅回路の設計

まず、6AK5のEp-Ip特性のグラフに負荷直線を引いたものを次の図に示します。

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電源を12Vとし、プレート電圧の軸上12Vの点と、プレート電流の軸上8μAとの間に直線を引いてみます。ここで、横軸上の12Vの点は電源電圧から決まります。縦軸上の8μAの点は、一般には真空管の内部抵抗の2倍から3倍の値を用いるのですが、この図のEp-Ip曲線のように、直線の部分が無い場合には、ある決まった内部抵抗の値はありません(内部抵抗の値は、Ep-Ip曲線の傾きの逆数です)。なので、負荷直線と、Ep-Ip曲線の交わる間隔がだいたい等しくなるような角度に決めることにします。

このときの負荷抵抗はRp=12V÷8μA=1.5MΩとなります。ここで、Ep-Ip曲線の間隔がだいたい等間隔になるような範囲を取ると、プレート電圧が3.5Vから9.5Vの範囲となり、6.5Vあたりが真ん中になります。ここをバイアス点としてみます。Ep-Ip曲線はグリッド電圧を0Vから0.2Vずつ小さくして引いたものが左から並んでいるので、バイアス点におけるEp-Ip曲線のグリッドバイアスはだいたい-0.5Vとなり、このときのプレート電流は3.5μAです。よって、カソード抵抗で-0.5Vのバイアスをグリッドに掛けるには、0.5Vを3.5μAで割って、約0.15MΩ=150kΩとなります。

また、負荷直線上でグリッドバイアス-0.5Vの点を中心として、-0.2Vから-0.8Vまで0.6Vppの範囲を入力信号の振幅とします。このとき負荷直線上の信号はバイアス電圧が-0.2Vから-0.8Vの位置まで0.6Vppだけ動き、横軸のプレート電圧で見ると3.5Vから9.5Vまで6Vppだけ動きます。これより、理想的な増幅率は6Vpp÷0.6Vpp=10倍となります。

さらに、入力の信号を0V中心にするためのハイパスフィルターは0.1μFと640kΩ、出力の信号を0V中心にするためのハイパスフィルターは10μFと10MΩにしました。これは、詳しい話は省きますが、1.5MΩの負荷抵抗とこの10MΩの抵抗の並列の合成抵抗が交流信号に対する負荷となりますので、この合成抵抗が1.5MΩからあまり下がらないように、十分大きな抵抗値を出力に置いてあります。

これで、次の回路図ができ上がります。

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6AK5を用いた増幅回路の入出力信号

この回路の入出力信号をプロットしたものを次の図に示します。ここでは、上から順に、入力信号、真空管のカソードを基準としたグリッドの電圧、真空管のプレートの電圧、出力信号それぞれの電圧変化をプロットしています。

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上から二番目と三番目のグラフを見れば分かるように、カソードを基準としたグリッドの電圧(バイアス)が-180mVから-820mVまで変化しているときに、プレートの電圧は3.8Vから9.6Vまで動いており、おおよそ設計通りの動作をしていることが分かります。

6AK5を用いた増幅回路の出力インピーダンスの改良

ここでは、12AX7の場合と同様、この回路の出力インピーダンスを小さくします。

改良した回路を次の図に示します。ここでは試行錯誤して、カソード抵抗を100kΩに減らしています。

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この回路の入出力波形を次の図に示します。

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出力の抵抗を10kΩに減らしても問題なく動作していることが分かります。また、上の回路図では、入力信号の最大値を0.1Vから0.3Vまで、0.1V単位で増やしながらそれぞれ入力し、各値に対して入力信号と出力信号を上の図のグラフにプロットしています。全ての入力信号で、ほぼ上下対称に増幅されていることが分かります。

6AK5を用いた増幅回路の周波数特性

次に、十分な周波数帯域が出力されているのを確認するために、.ac解析を行います。回路図のうち、まず電源を右クリックして6DJ8のときと同様に設定します。次に、SPICE directiveを次の図のように書き換えます。1行目の先頭のセミコロン(;)はコメントアウトです。2行目がAC解析用のSPICE directiveです。

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この状態でシミュレーションを実行すると、次の図のように、入力信号の周波数を変化させたときの増幅率特性(実線、縦軸は左)と位相特性(点線、縦軸は右)が表示されます。

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増幅率特性より、基本的に20dB (10倍)の増幅率を持っていることが分かり、また、最大値から-3dBの範囲を見ると、3Hzから100kHzという範囲でこの増幅率を維持していることが分かります。また位相は20Hzから20kHzの範囲では位相のずれは10度程度に抑えられていることが分かります。

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