2. 12AU7を用いた増幅回路

本節では、12AU7を用いて増幅回路を設計します。特に、負荷直線を二通り引いてみて、それぞれの負荷直線を用いて回路定数を計算してみます。

12AU7を用いた増幅回路の設計(負荷直線パターン1)

まず、12AU7のEp-Ip特性図に負荷直線を引いたものを、次の図に示します。

画像1

電源を12Vとし、プレート電圧の軸上12Vの点と、プレート電流の軸上80μAとの間に直線を引いてみます。横軸の12Vは電源電圧から決まります。縦軸上の80μAの点は、負荷直線と、Ep-Ip曲線の交わる間隔がだいたい等しくなるように決めることにします。

このときの負荷抵抗値はRp=12V÷80μA=150kΩとなります。ここで、Ep-Ip曲線の間隔がだいたい等間隔となるような範囲を取ると、プレート電圧が2.5Vから6.5Vの範囲となり、4.5Vあたりが真ん中になります。グリッドバイアスの曲線は、一番左が0Vで、右に行くにつれて0.2V単位で減少していますので、プレート電圧が4.5Vとなるような負荷直線上の点のグリッドバイアスはだいたい-1Vとなり、このときのプレート電流は45μAです。よって、カソード抵抗を用いて-1Vのバイアスをグリッドに掛けるためのカソード抵抗の抵抗値は、1Vを45μAで割って22kΩとなります。ここでは20kΩとします。

また、負荷直線上でグリッドバイアス-1Vの点を中心として、-0.8Vから-1.2Vまで0.4Vppの範囲を入力信号の振幅とします。このとき負荷直線上の信号は、バイアス電圧が-0.8Vから-1.2Vまで0.4Vppだけ動き、横軸のプレート電圧で見ると2.5Vから6.5Vまで4Vppだけ動きます。これより、理想的な増幅率は4Vpp÷0.4Vpp=10倍となります。

さらに、入力の信号を0V中心にするためのハイパスフィルターの値は0.1μFと470kΩ、出力の信号を0V中心にするためのハイパスフィルターの値は0.1μFと1.5MΩにしました。出力側は、負荷抵抗と出力の抵抗を並列接続したものが実際の交流に対する負荷抵抗となるので、1.5MΩという負荷抵抗が下がらないような値を、とりあえず設定しています。この抵抗値は出力インピーダンスには影響しない(出力電流の大小には関係ない)ので、大きくしても構いません。また、1.5MΩという抵抗値は大きくて入手しずらいので、1MΩと470kΩの抵抗を直列接続して用いることにします。

以上で次のような回路図が完成しました。

画像2

12AU7を用いた増幅回路(負荷直線パターン1)の入出力信号

この回路に最大値0.2Vmax (0.4Vpp)の正弦波を入力したときの入出力波形を
次の図に示します。

画像3

上のグラフが入力信号の電圧、下のグラフが出力信号の電圧です。0.4Vppの入力信号が3.7Vpp程度まで増幅されており、だいたい設計どおりに増幅できていることが分かります。ただ、プラス側よりもマイナス側の増幅率が若干大きくなっており、若干特性が悪いです。

12AU7を用いた増幅回路の設計(負荷直線パターン2)

本節では、前節と異なる負荷直線を引くひとで、より良い特性を実現することを目指してみます。

最大値240μAの12AU7のEp-Ip特性の図に負荷直線を引いたものを、次の図に示します。

画像4

電源を12Vとし、プレート電圧の軸上12Vの点と、プレート電流の軸上240μAとの間に直線を引いてみます。横軸の12Vは電源電圧から決まります。縦軸上の240μAの点は、負荷直線と、Ep-Ip曲線の交わる間隔がだいたい等しくなっているので、80μAの点を選ばなくても良さそうということから決めました。以下ではこの負荷直線に基いた回路を設計してみます。

このときの負荷抵抗値はRp=12V÷240μA=50kΩとなります。ここで、Ep-Ip曲線の間隔がだいたい等間隔となるような範囲を取ると、プレート電圧が2.5Vから7.5Vの範囲となり、5Vあたりが真ん中になります。グリッドバイアスの曲線は、一番左が0Vで、右に行くにつれて0.2V単位で減少していますので、プレート電圧が5Vとなるような負荷直線上の点のグリッドバイアスはだいたい-0.5Vとなり、このときのプレート電流は140μAです。よって、カソード抵抗を用いて-0.5Vのバイアスをグリッドに掛けるためのカソード抵抗の抵抗値は、0.5Vを140μAで割って、だいたい3.3kΩとなります。

また、負荷直線上でグリッドバイアス-0.5Vの点を中心として、-0.2Vから-0.8Vまで0.6Vppの範囲を入力信号の振幅とします。このとき負荷直線上の信号は、バイアス電圧が-0.2Vから-0.8Vまで0.6Vppだけ動き、横軸のプレート電圧で見ると2.5Vから7.5Vまで5Vppだけ動きます。これより、理想的な増幅率は5Vpp÷0.6Vpp=8.3倍となります。

さらに、入力の信号を0V中心にするためのハイパスフィルターの値は0.1μFと470kΩ、出力の信号を0V中心にするためのハイパスフィルターの値は0.1μFと150kΩにしてみました。出力側は、負荷抵抗と出力の抵抗を並列接続したものが実際の交流に対する負荷抵抗となるので、50kΩという負荷抵抗が下がらないような値を、とりあえず設定しています。この抵抗値は出力インピーダンスには影響しない(出力電流の大小には関係ない)ので、大きくしても構いません。

以上で次の回路図が完成しました。

画像5

12AU7を用いた増幅回路(負荷直線パターン2)の入出力信号

この回路に最大値0.3Vmax (0.6Vpp)の正弦波を入力したときの入出力波形を次の図に示します。

画像6

四つのグラフは上から入力信号の電圧波形、出力信号の電圧波形、プレート電圧の波形、プレート電流の波形です。設計どおりのプレート電圧とプレート電流になっていることが分かります。また、プレート電圧の中心を0Vになるようにシフトしたものが出力電圧になっていることも見てとれます。

このように、電源電圧が同じでも、負荷抵抗の値を変えることで負荷直線を変更することができ、増幅の特性を色々と変化させることができます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?