6. KORG Nutube 6P1を用いた増幅回路

本節では、最近KORG社から発売されたNutube 6P1を用いた増幅回路をシミュレーションし、回路を設計します。

KORG Nutube 6P1とは

Nutube 6P1は、KORG社から2016年に一般販売開始された真空管です。この真空管の特徴は、プレート電圧5Vから動作すると説明されていること、これまでの真空管と異なり蛍光表示管を基にして作られていること、グリッドバイアスとして0Vから正の電圧を掛けること、三極直熱管であり、300Bのような音がするとメーカーから説明があることなどです。また、SPICEデータがメーカーから提供されているため、低プレート電圧の部分も含めて、モデルを作成する必要がありません。そのため、この真空管については、他の真空管とは節を改めて説明します。

KORG NutubeのWebページ(https://korgnutube.com)からNutube 6P1のSPICEデータを取り寄せることができますので、ここではまず、KORGのWebページに掲載されている増幅回路のシミュレーションを行ないます。

KORG Nutube 6P1の部品追加

LTspiceのディレクトリ「lib\sub」の下に「KORG」というディレクトリを作成して、この中にメーカーから取り寄せたファイル「Nutube.sub」を追加します。

シンボルファイルは三極管のものを流用します。ディレクトリ「lib\sym\Misc」の中にファイル「triode.asy」がありますので、ディレクトリ「lib\sym」の中にディレクトリ「KORG」を作成し、この中に「Nutube.asy」というファイル名でコピーします。次に、このファイルをテキストエディタで開き、以下の行を書き換えます。

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これを以下のように書き換えます。

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LTspiceを再起動すると、部品を選択するとき、次の図のように[KORG]の中からNutubeを選択することができるようになっています。

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追加したKORG Nutube 6P1のモデルを用いたEp-Ip特性の描画

ここでは、入手したNutube 6P1のspiceモデルを用いて作成したEp-Ip特性を、低電圧の場合と高電圧の場合についてそれぞれプロットしたものを示します。

まず、プレート電圧とバイアスを変化させてEp-Ip特性を計測するための回路図を次に示します。この回路においては、プレート電圧を0Vから100Vまで変化させ、バイアスを5Vから-3Vまで1V単位で変化させています。

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このときのEp-Ip特性を次の図に示します。グラフで一番上にある曲線がバイアス電圧5V、一番下にある曲線がバイアス電圧-3Vで、1V単位で変化させています。

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このグラフの縦のスケールを変化させて、最大0.2mAでプロットしたものを次の図に示します。バイアス電圧は上のグラフと同じく、一番左にある曲線がバイアス電圧5V、一番右にあるものがバイアス電圧-3Vで、1V単位で変化させています。

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次に、低電圧時の特性を見るために、プレート電圧を0Vから12Vまで変化させたときの特性をプロットしてみます。上の図のグラフでは、バイアスを2Vまで下げたときにプレート電流がかなり小さくなっています。そこで、次の回路では、バイアスを4Vから2Vまで0.5V単位で変化させています。このときのEp-Ip特性を計測するための回路図を次の図に示します。

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このときのEp-Ip特性を次の図に示します。グラフで上にある曲線が、バイアス電圧が正に大きいときのもので、バイアス電圧を小さくしていくと、曲線が下のものになります。

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KORG Nutube 6P1を用いた増幅回路の設計

KORG Nutubeの使用ガイドのWebページ https://korgnutube.com/jp/guide/ に、Nutube 6P1を用いた一段増幅回路の例が掲載されています。これを次の図に示します。

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追加したモデルを用いて、実際に回路を設計してみます。上の回路図にはフィラメントを点火するための回路も含まれていますので、LTspice用にフィラメント用の回路を除いた増幅回路を次の図に示します。

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上のEp-Ip特性のグラフを使うと、バイアス電圧は3V程度が良さそうです。一方、メーカー推奨のバイアス電圧は2V程度です。

KORGのページに掲載されている回路図では、入力バイアスの電圧を制御するのに可変抵抗VR1を用いていますが、LTspiceでは部品として可変抵抗が準備されていないので、この回路では1kΩと2.3kΩを使って、バイアス用の電源3.3Vを分圧して、バイアス電圧2.3Vを作成しています。さらに、信号の電圧によってこのバイアス2.3Vが動かないように、33kΩの抵抗を信号線との間に挟んでいます。

また、この回路では、入力と出力にFETを用いたバッファ回路を挿入してあります。この理由は以下のとおりです。まず、この真空管は出力インピーダンスが高いので、回路全体の出力インピーダンスを下げるために、回路の出力側にバッファ回路を入れています。また、バイアス生成回路で入力インピーダンスが下がってしまうので、入力インピーダンスを高くするために、回路の入力側にもバッファ回路を入れています。バッファ回路用のFETには、LTspiceにモデルが含まれていて日本で入手可能なJ112を用いています。

この回路の入力信号と出力信号を次の図に示します。このグラフより、上記の増幅回路で6倍から7倍程度に増幅できていることが分かります。また、入力信号と出力信号の位相が反転している(180度ずれている)ことも分かります。

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この回路において、入力のFETは入力インピーダンスを大きくするためのものですが、バイアスを掛けるための回路の抵抗が十分高く、前段の回路の出力インピーダンスが十分低い場合には、これを省略することができます。このときの回路図を次に示します。

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この回路の入力信号と出力信号の波形を次の図に示します。

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また、この真空管は、電源電圧が低い時は正のバイアスを掛けて使用しますが、ある程度電源電圧を上げるとゼロバイアスで使用できます。例えば、電源電圧が60Vの場合の回路図を次に示します。

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この回路の入力信号と出力信号の波形を次の図に示します。

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