1. 低電圧の場合の真空管のEp-Ip特性の実測
本節では、B電圧が低電圧の場合の、各真空管のEp-Ip特性を実測します。
ここでは低電圧アンプの製作を目指していますので、プレート電圧Epを
最大20Vとして計測します。
三極管のEp-Ip特性の計測方法
まず三極管の特性を計測する際の接続方法を示します。次の図のように、プレートとグリッドに電圧をかけると同時にその電圧を計測しながら、プレートに流れる電流を測ります。
グリッド電圧は、図の上側の端子が下側の端子より電圧が高い場合に正であるとします。実際には、ここでは負の値になりますので、図の下側の端子を電圧計の正の端子とし、読み取った電圧の符号を反転させて表示しています。
また、以下で計測する6DJ8や12AU7、12AX7などは双三極管と呼ばれる、一つの真空管の中に三極管が二つ封入されたものなので、このうち片方だけを計測しています。
五極管(三極管結合)のEp-Ip特性の計測方法
次に、五極管の特性を計測する際の接続方法を示します。次の図のように、プレートとグリッドに電圧をかけると同時にその電圧を計測しながら、プレートに流れる電流を測ります。
このとき、g3はカソードに内部接続されている場合が多いです。接続されていない場合は真空管の外で結線しています。また、本稿では、NFB(負帰還)を使わないため、五極管を三極管結合して、三極管として用いています。このとき、g2をプレートと接続します。これにより、多くの熱電子がg2に吸い込まれるので、五極管をこのような結線で用いることにより、g2、g1、カソードから構成される三極管のような特性を示します。
JJ E88CC (6DJ8)
JJ社の双三極管E88CC (6DJ8同等管)のEp-Ip特性を計測します。グリッド電圧を変化させて得られたプレート電流の特性は以下のようなグラフになります。横軸が変化させたプレート電圧、縦軸がプレート電圧を上げたときに上がっていくプレート電流です。これを、グリッド電圧を色々変化させながらプロットしています。グラフの点は実測した値、線はこれを単純に接続して折れ線グラフにしたものです。
ただし、これはグリッド電圧を変化させてそれぞれ描画した折れ線グラフなので、グリッド電圧Egとプレート電圧Epの両方を変化させてプレート電流Ipを計測したグラフは、以下のような三次元のグラフになります。
Electro Harmonics 12AU7EH
Electro Harmonics社の双三極管12AU7EH (12AU7)のEp-Ip特性を計測します。グリッド電圧を変化させて得られたプレート電流の特性は以下の図ようなグラフになります。
グリッド電圧Egとプレート電圧Epの両方を変化させてプレート電流Ipを計測したグラフは、以下の図のような三次元のグラフになります。
Sovtek 12AX7WXT+
Sovtek社の双三極管12AX7WXT+ (12AX7)のEp-Ip特性を計測します。グリッド電圧を変化させて得られたプレート電流の特性は以下のようなグラフになります。
グリッド電圧Egとプレート電圧Epの両方を変化させてプレート電流Ipを計測したグラフは、以下のような三次元のグラフになります。
プレート電圧を上げたとき、直線的に電流が上昇しているように見えるので、プレート電圧を40Vまで変化させてプレート電流を計測した結果が以下のグラフです。
グリッド電圧を変化させて得られたプレート電流の特性は以下のようなグラフになります。
グリッド電圧Egとプレート電圧Epの両方を変化させてプレート電流Ipを計測したグラフは、以下のような三次元のグラフになります。
Western Electric 403A (6AK5)
Western Electric社の五極管403A (6AK5同等管)のEp-Ip特性を計測します。これは五極管なのですが、三極管結合して、三極管としての特性を測っています。
グリッド電圧を変化させて得られたプレート電流の特性は以下のようなグラフになります。
NEC 6AS5
次に、出力管を試してみます。ここでは、NEC社のパワー五極管6AS5のEp-Ip特性を計測します。これも五極管を三極管結合して、三極管としての特性を測っています。
グリッド電圧を変化させて得られたプレート電流の特性は以下のようなグラフになります。
グリッド電圧Egとプレート電圧Epの両方を変化させてプレート電流Ipを計測したグラフは、以下のような三次元のグラフになります。
後半二つの、五極管の三極管接続と、前半三つの三極管の特性には大きな違いがあります。三極管でグリッド電圧を一つに固定してプレート電圧を0Vから上げて行くと、プレート電圧が低い所で急激にプレート電流が上がったあと、指数関数的になだらかにプレート電流が増加していきます。一方五極管の三極管接続では、プレート電圧が0Vの位置から、グラフがきれいな指数関数になっています。これにより、三極管の方がプレート電圧が低い所(特性が変わる場所より上の電圧)でプレート電流が多く流れますが、そこより小さい部分では特性が変わってしまい、綺麗に増幅回路を設計することができません。一方、五極管の三極管接続の方が、プレート電圧が0Vの部分まで特性が変わらないため、この部分まで使って増幅回路を設計できる可能性があります。
いずれにしても、20Vという低いプレート電圧で、1mA程度のプレート電流が流れ、その特性も悪くないことが実験より分かりました。ただし、プレート電圧が低いときは、管ごとの特性のばらつきが大きいことが知られています。これにより、実際に真空管アンプを組んだとき、その増幅率などが若干変化することが想定され、限界まで出力を得ようとすると、管ごとの調整が必要になるかも知れません。