「あなたはよくそれで一体なんの目的が果たされるのか、と問うよね。世界の全てが精巧な歯車みたいにきちんと噛み合ってる訳では無いの。いいわね、全ては思ってより不十分で不安定なのよ」

長いこと夢を見ていなかったので、それを夢だと認識するまでに時間がかかった。見たことの無い灯台を携えた丘と青過ぎる芝、源氏物語について語り出すと止まらなくなる高校二年の時の古文の女教師とその台詞、随分と昔に捨ててしまったアコースティックギターを持った僕。
数年前、彼女と一度だけ街で出くわしたことがある。僕はその時35で、彼女も優に40を超えていた。限りなく泉南の道玄坂にあるオイスターバーでたまたま隣の席になった。彼女は大学のゼミの面子の定例会だと言っていた。僕は彼女に言われたことのないはずのその言葉を思い出していた。

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