例えばの話


過去体験した時間の中での任意の5分間をいつでも、何度でも追体験出来る能力があったとする。そして、それは現在の記憶や価値観を持って、過去と違う行動も取れるが、現在に一切の影響を及ぼさない。つまり、大学入試の最後5分に飛んで丸暗記した回答をマークしても、海外のカジノのバカラ台の罫線を覚えてその通り張っても、5分が終わって戻った時に今が変わることはなく、そういうifを体験できるだけということだ。
今は疎遠になってしまった小学生の頃の友人と誰かの家でスマブラをしていた5分間や忘れられない元彼と乗ったディズニーランドのアトラクションの5分間を繰り返し何度でも経験できる。僕の場合、17歳の秋に当時の彼女と外苑前の銀杏並木を歩いた5分間を選ぶ。

これまで1番長く続いた彼女って何年くらい付き合ったのか、という月並みな質問に対して僕はいつも素直に高校時代に付き合ったその彼女との2年間の話をする。
彼女は部活の先輩で帰りの電車が同じなことをきっかけによく一緒に帰るようになり、流れで付き合うようになった。特に何か特別なことをしたという訳でもなく、多くの他の人がするようなことを沢山した。時間の経過か余りにもありふれた経験だったからか1番長く続いた人の割に記憶が乏しい。

銀杏並木の色や人混みの具合は何となく覚えているが、彼女がどんな顔をしていたのかは全く覚えていない。寧ろ、見ていなかったかもしれない。
もし、本当に追体験出来るのならその瞬間をより神聖なものにすべく一つひとつくまなく記憶に残せるだろう。

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