笑う、招く、拐う


 「あなたの顔見ると無性にタバコが吸いたくなるのよ。決してあなたの顔が不細工だとかそういうことじゃないの。ほら、よく見ると目鼻立ちもくっきりしてるし、皺だって良い味してるじゃない。私が言いたいのはつまり、随分と前にやめたタバコのことを思い出すっていうことなの」
「僕は煙草を吸わないよ」
「それがどうってことじゃないのよ。どんな事実も私がどう感じるのかには関係ないのよ」
僕は諦めて彼女に煙草を勧めた。一緒に近くのコンビニまで行って、ピースライトと缶ビールを1ケース買った。家に着いて、肝心のライターを買い忘れたことに気がついて、彼女はコンロの火で煙草に火を点けた。

僕たちは朝までビールを片手に話していた。僕は雨が降ると必ず三限まで学校に来なかった同級生のこと、大学生の頃に付き合っていた女性の胸下にある三つの黒子が顔に見えること、煙草を本当に少しの間だけ吸っていたが手に残るたばこの匂いが苦手だったからやめたことを話した。

「あなたって煙草をやめた人の顔をしてる」

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