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アラスカの夏の夜の話。苦悩の先に出した答えは…

第1話 「アラスカの夏の夜の話。それでも僕は…

今回の話は前回の続きです。まだ1話を読んでいない方はそちらからどうぞ。

以下本文


お酒を飲んだ後の朝はいつも寝覚めが悪い。この日の朝は特に悪かった。前日飲み過ぎたからなのか、それとも忘れたかった記憶が残っているからなのか。幸いにもこの日の仕事は4pmからだったから時間の余裕があった。

時刻は12pm。僕は昼のアラスカの街へ、新鮮な空気を吸いに行くついでに昼食を食べに行くことにした。

この日、乗っていた船が停まっていた港町は、アラスカの山奥に位置するウィッターという街。人口は約200人ほどの小さな街だ。夏場は観光客が多く来る街ではあるが、冬場は6メートルを越える積雪、風速時速100メートルを超える強風に当たり前のように見舞われる街である為、住人の8割が同じマンションで暮らし、マンション内に街の機能のほとんどが備わっている。マンションと学校とは地下トンネルと繋がっているという他になかなかない形をした街だ。

街に一軒しかないホテルに、街に一軒しかないバーがあり、そこに併設している食堂がある。ウィッターの街で昼食を取る場合は、だいたい皆、ここへ行く。

夜とはまったく違った顔を見せる街を僕は自転車で走り、少し遠回りをしながらお馴染みのホテルの食堂へと向かった。

食堂にいた船の友達と言葉少なに挨拶を交わし、席に座る。頭に浮かんで来るのは昨夜のこと。
酒に酔っていたとは言え、あの対応はまずかったなと。相手の為にもはっきりとNOと言うべきだったと。

そんなことを考えながらスマホをWiFiに繋ぐ。
メッセージが1通届いていた。
朝4:55amに届いたメッセージだった。

短く一言。

「Hey」

昨夜別れた後に送って来たメッセージだろう。
眠れなかったのだろうか。すでに昼を過ぎていたことだし、僕は返信をしなかった。
それに何て返信すれば良いかも分からなかった。

とりあえず距離を置いて時間が解決するのを待ってみることにしようと決めた。

昼食を食べ終え、外に出ると曇っていた空から太陽が顔を出していた。うん、なんとかなるだろう。と甘い考えで頭を満たしながら仕事の準備の為、船へと戻って行った。

2日間は、何事もなく過ぎていった。
3日目の夕方、彼から短いメッセージが1通届く。

「Missing you」

なんとも返信しづらいメッセージだ。これが好きな女の子からのメッセージだったのなら喜んで返信しただろうが、相手はゲイの男友達だ。
しかも、数日前にベッドに誘って来た相手だ。しかし友達である以上、無下にはできない。

「What’s up? Are you getting off ship?」

この日はジュノーという港町に船が停まっていた。彼からはこれからディナーを食べに寿司レストランに行くと返信が来た。

僕は、夕方から仕事だったので、これから船に戻る所だと短い連絡を入れた。

「I'm going back to ship soon and take a nap for working this evening」

それに対する彼からの返信。
「Missed your handsome face last night」
ストレートにアプローチを始めて来た。

うむ。まずいな。

心の中でそう思いながら、
「Hahaha Sorry I had to call my friend this morning 4am. So I went to sleep early last night」
と言い訳のメッセージを返した。

この後2、3通のやりとりをしたあと僕はスマホの通信を切った。さて、この状況をどう打開するべきかと。

仕事をそつなくこなしながらも頭の中では、彼とどう距離を取るかについて考えを巡らせていた。
自分の答えははっきりと出ている。NOだ。
誰がなんと言おうとNO。

僕はゲイじゃない。
これは今までの船で何人ものゲイからアプローチを受けて来てすでに出ていた答えだ。

如何にして相手を傷つけず、お互いにとって良い方法でこの状況を終わらせることが出来るのか。
今までアプローチして来たゲイたちと同じようにお互い納得した上で友達でいるという選択肢に進む為にはどうするべきなのかと。

結末を言うと、終わりは自分の望んでいたものとは違う形でやって来た。

彼とメッセージのやり取りをした翌日の夜、僕はスパの女友達とバーでお酒を飲んでいた。
彼も彼の友達とクルーバーに来ていた。

彼とは話すことなく、僕は女の子達の輪に加わって一晩を過ごした。
クルーバーを後にする時に目線の端に彼を捉えつつも僕は声をかけずに友達とバーを後にした。

翌朝、彼からメッセージが届いていた。

「Never got to say hi tonight at the bar」

僕は返信しなかった。

これが彼から送られてきた最後のメッセージとなった。







そして、物語は終末へと向かう。
結末は残酷なもの。
たとえそれが自分の意図した形ではなかったとしても。

次回、最終話
アラスカの夏の夜の話。残酷な天使のように…

この物語は実話であり、実際にあった豪華客船でのクルーの日常の話です。
物語の構成上、多少の脚色をしていることはご理解ください。次回もお楽しみに。

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