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泥の靴でピーマン持って、じんわり進もう

行き渋りの激しい小学二年息子の今週の登校記録。

月曜日 (4時間目のみ登校)
朝、久々に雨降っていない。
集団登校の集合場所に私だけ向かう。

7月ごろからずっと集団登校できていないので、他の子に会うのも久しぶり。なつかしい。ちょい大きくなった?

毎朝、登校班のグループラインに「先に行っていてください。よろしくお願いします」と送るのが苦だった。

家を出るべき時間になっても玄関から動かぬ息子。時計を見ながらなだめてすかして胃を痛めて。
タイムオーバーになるギリギリに、諦めてラインを送る。
「了解しました」のスタンプが来る。

毎日コピペされる「先に行っていてください。よろしくお願いします」と、スヌーピーの「了解しました」のスタンプが交互にずらっと続いていく日々。
これからもいつまでも続きそうでげっそりした。
他の方々を巻き込んでいるのも申し訳なかった。

(ちなみにいつからか、その時刻になるとスマホの方から「そのメッセージを送りますか?」とサジェストしてくるようになった……スマホ賢い…。
でも「今日こそ行けるか!?」と粘っている時に来るこのお節介は心を挫いた)

お久しぶりの先輩ママさんらに、現状を話す。
集団登校は出来る時だけ参加させてもらい、欠席連絡はしない、という形を快諾してもらった。ほっとした。

月曜日なこともあり、ひどい行き渋り。
4時間目になんとか連れていき、給食は食べずに早退。
送迎の合間の小一時間、私は家でひとりになって、お菓子食べつつ、ぼおっとした。

火曜日 (2時間目から4時間目まで)

今日はぐずらず2時間目から行ってくれた。
ただ、今日も給食前に迎えに行く条件。

迎えに行くと、給食当番さんたちで廊下がひしめいていて、居場所がなかった。
毎日二度も顔を出すママとして、クラスの子らに認知されつつある。
次々話しかけてくれて、ほほえましいけど気疲れする。
息子といっしょで私も、学校とか集団とかすっごく苦手なのだ。
息子にはあれこれ説教しつつも。

ランドセル背負って肩身狭そうに、混雑した廊下を歩く息子。
「あ、ちのくん! 帰るの? バイバイ! タッチ!」
同じ幼稚園だった女の子が、気軽に声をかけてくれた。
小学校ではずっとクラスが違うのに、覚えてくれていてありがたい。

二人の間、顔の高さに掲げられた女の子の手に、息子は恐る恐る手を合わせた。

帰り道、自転車の後ろに乗りながら、行きとはうって変わって饒舌になる息子。算数のデシリットルの授業が楽しかったと言う。

「バイバイってハイタッチしてくれてよかったね」と話したら
「ちのの手より、小さかった」
と、ぽそっと言ってた。


水曜日(3時間目から給食まで)

やっと難関ミッション「給食」を超えられた。
その分、朝の抵抗が激しくて3時間目からになってしまった。

国語の「道案内をしてみよう」という単元が2時間目にあり、それを避けたがったのもある。コミニュケーションが必要なものに苦手意識。

(行く前にチャレンジのタブレットでその単元を自ら予習してたのには感心。そうやって具体的に不安に対処するすべを体得していってほしい)

今週は一応毎日通えてはいるが、遅刻早退を繰り返していては「わからないこと」は増すばかり。
勉強はどうとでもなるけど、クラスでのルールとか体験とか、置いていかれないかと私の方が不安。
息子は目先の不安ばかりで、そこまで考えられてはいなそう。

給食後、迎えに行く。いろんな匂いが漂う廊下。昼休みの始まりで、めまぐるしく行き交う子供たち。天然のざわめき。

息子が見当たらずキョロキョロしていたら、元気な男の子がトイレの中まで探しに行ってくれた。

「ドア閉まってるトイレが一個あったからさ、ちのさん、きっとそこだよ!」
と教えてくれた。
が、その時、教室の中から覇気のない息子が出てきた。ただ死角にいただけだった。
「あっれ〜〜!? じゃあ、あのトイレの中は誰だろ?
 もう一回調べてくる!」
止める間もなく、元気な男の子は楽しそうにトイレに駆け込んでしまった。トイレの個室の主に少し同情。

下駄箱で黒い運動靴に履き替える息子。靴の先が、泥でひどく汚れていた。
洗うのめんどくさいなぁと思っていたら、

「これ? 校庭がぬかるんでてね。
 はじめて、そうせいくんと休み時間、外で遊んだんだ」
はにかんで応える息子。

先日「今まで休み時間に教室から出たことないんだ…」と言ってたとこだった。
「なんで? 校庭とか行かないの?」と聞いたら、
「怒られるかもしれない…。みんなは行ってるけど…」と、また勝手な不安を拗らせていたのだった。

それが、仲良しの友達と一緒に外で遊べたなんて。

白っぽく乾燥した泥靴が愛おしいものに変わった。



木曜日(3時間目から給食まで)

今日こそ最後まで、と望んでいたものの、また昨日と同じタイミングで早退することに。

掃除当番の担当がわからなくて怖いらしい。
家のソファの後ろに隠れて「わかんない、こわい」と言っていてもどうにもならないと何度も言ってるのに、伝わらない。
「行けばわかるし、不安が小さくなる」と何度も体験しているのに、新しい不安がでるとまた繰り返してしまう。

気持ちはよくわかるし、多かれ少なかれ、私も同じことをしているのだろうけど。

昼休みの混雑に乗じて今日も迎えに行く。
「ちのさんって、なんですぐ帰っちゃうの?」
ひとなつっこそうな男の子が私に話しかけてくる。

え、なんて応えよう。帰り支度している息子にも聞こえる距離だ。

「うーん、今ちょっと学校行くのにどきどきして不安になっちゃうから、ちょっとずつ慣れる練習してるんだよね」

「へ〜〜〜! じゃあ学校やめて、幼稚園に戻ればいいじゃん!」
名案を思いついた! とばかりにニコニコしてる男の子。無邪気100%!
かたまってる息子。

「いや〜、幼稚園はもう卒業しちゃったからなぁ…。
 もうちょっとで学校も慣れると思うよ」
ひやひやしながらフォローする。

「ふ〜ん。あ、じゃあ、お母さんがこのクラスの先生になったら? そしたら、ちのさんも安心するよ!」
次々に浮かぶアイディアに感心するしかなかった。

かたい表情でランドセルを背負った息子に、仲良しのそうせい君がなにか話しかけている。
うなづく息子。ふっとゆるむ表情。
そうせい君はハサミを持って急に教室から駆け出した。

息を切らして戻ってきたそうせい君は、ピーマンをひとつ、息子に渡した。
「あげる」「……ありがと」
校舎裏の畑で、自分が担当しているピーマンを収穫してきてくれたのだ。

採れたてのピーマンはテカテカ輝いて、作り物みたいだった。
「お花みたいな匂いがする」
嗅いでみると、予想した青臭さはなく、もっと華やかで複雑な香りがした。

帰り道の自転車。息子は両手でピーマンを持って、ずっと見ていた。

魚焼きグリルで、たった一個のピーマンを回転させつつ、じっくり焼いた。(野菜室にピーマンはたくさん控えていたのだけど、もらったピーマンと混ぜたくなかった)
くたくたになったのを薄皮むいて、甘じょっぱく味つけた。

普段は食わず嫌いをしている息子が、ぺろりと美味しく平らげた。

今日も、そうせい君さまさま。


金曜日(3時間目から最後まで)

今週最後の日だし、放課後そうせい君と遊ぶ約束しているし、今日こそ最後までがんばろうね、と言い聞かせても
「昼休み迎えに来るって約束しなきゃ行かない」と条件をつけて行き渋る息子。
自分は約束破りまくってるくせになんだよ、とムカつく。
最近読んでる本を色々思い出して、心を落ち着かせようとする。

利他とは、自分の大切にしているものよりも、その他者の大切にしているものの方を優先すること

『利他・ケア・傷の倫理学』近内悠太

その場において何が正しいのかを決める権限は、いつも叱る人の側にある。
そのため、自分の「正しさ」「あるべき姿」が相手に通じていないことに、なんとも言えないどす黒い感情を感じることになるでしょう。
「なんとかして、正しい行動、あるべき姿に戻さなくてはいけない」、そんなふうに考えるのです。(中略)
しかしながら叱る人の充足感は長続きしません。「叱る」には課題解決の力がないからです。(中略)
そしてただひたすらに「叱る」が加速し、より強い刺激で、より強いネガティブ感情を与えようと苦心するようになってしまいます。

『〈叱る依存〉がとまらない』村中直人

・自分の傷つきと向き合うためには、周囲の人が自分を傷つけないという安心感が必要
・成長とはケア(ニーズを満たす、依存を引き受けること)とセラピー(傷つきと向き合い、自立を促すこと)のほどよいリズムで可能になる
・ケアが先でセラピーが後

『雨の日の心理学』東畑開人

なんて、いろいろ思いかえし、激高しないようにする。ギリギリ。

仕方ない。こちらの願望を押し付けすぎるのはやめよう。
昨日同様に迎えに行く約束をして、自転車にやっと乗せた。
それでもつい、チクチク言ってしまう。
「より強いネガティブ感情を与えようと苦心する」という状態に入ってしまってる。

「なるほどね〜気をつけなきゃね〜」と本を読みながら理性的に思ってた自分のなんと脆いことか。

学校に着き、担任の先生と話す。休み時間だったのでいつもより余裕を持って話せた。
50代の聡明で人情味のあるベテラン先生に「実は今日も早退で…」と話すと
「あら〜〜」と困った顔をされた。申し訳ない。

先生も今日こそはと思っていたようで、たくさん粘ってくれた。
「掃除も一緒にやろ…体育も体育館までついていくから…見学でもいいし…できたらやってみよ…ね、ちのさん、大丈夫だから」

押しに弱い息子が不承不承うなずくのを見届け、先生に挨拶し、その場から去った。

朝の約束を違えて裏切ったと思ってないだろうか、ほんとに迎えに行かなくていいのか……不安なまま、長いひとり時間。
息子だけでなく私も、今なにかバランスを欠いているんだろうな。

次男のバスのお迎え時間が先に来た。
「今日はちの、学校行ったんだ?」とクールに確認する次男。

長男が帰宅中なのをGPSで確認し、少しだけ迎えに行ってみる。我が家は学区の外れで結構遠いのでつい気の毒になってしまう。

うつむいて独り とぼとぼ歩いてないだろうか。
遠い人影を目を凝らして見ていると、ぴょんぴょん前後する三人のちびっこたち。そうせい君と、もう一人の子と一緒に楽しそうに歩いている。

なんだよもう、大丈夫じゃんか。
1週間の疲れが優しくのしかかってきた。

「ばいばぁい!」
「ばぁーいばいっ!」
「ばああいばーーいーー!!」
多様なバイバイを幾度も叫びあって友達と別れる。


「最後までいられて、がんばったね。どうだった? 不安、減った?」

「なんかね、家二個分くらいあった不安がね、今は豚の貯金箱くらいになった。」

めっっちゃ減ってるじゃん!! よくわからない比較だけど。
嗚呼、よかった……。

その後、そうせい君が我が家に遊びに来て、庭でプールをしたり、マイクラをやったり、大はしゃぎ。
そうせい君ママが迎えにきても子供らはケラケラ笑って逃げ隠れし、いつまでも帰らない。
やれやれと思いつつ、心はとっても平穏だった。


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